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東奥義塾高等学校 公式ブログ

○1736『切羽へ』○

『切羽へ』
著者名:井上荒野 出版社:新潮社 文責:地歴公民 加藤真之

 今日は大晦日。2014年がもうすぐ幕を閉じます。皆さんにとって、今年はどんな一年だったでしょうか。
 私はこの一年、とても多くの出会いに恵まれました。長く担任や学年主任の役割に務めてきましたが、4月から校務分掌が変わったこともあり、これまであまり関わりをもつことがなかった方々と接することが出来ました。3度に及ぶ訪問に際しては、津軽地区一円の中学校の先生方に快く対応していただいたこと、大変有難く思っています。外から見た東奥義塾がどんな高校なのか、その一端を垣間見ることができました。それと同時に、常に外から見た場合を想定して、学校の在り様を見る視点をもつことが出来るようになったことも、大きな収穫だと思っています。また、学校という組織を支える役割が実に多岐に渡っていることも実感することが出来ました。直接的に生徒に接するもの以外にも様々な役割があり、それこそ様々な業種のプロの手を借りて学校が運営されている事実を知りました。新しい部署の仕事に不慣れな私を支えてくれた同僚に対してはもちろんのこと、各業者の皆さんにもまた、心からの感謝を言わせてもらいたいと思っています。4月の校務分掌の変更により派生した多くの方々との出会いと、新しい発見に満ちた2014年だったことをとてもうれしく思っています。
 本の紹介を手掛けるようになったこともまた、部署の変更に起因しています。これまでに書いてきた私の原稿を読んで下さった方々はもうお気付きのことと思いますが、私は気に入った本を何度も読み返すタイプの読書好きです。出版されたばかりの本ももちろん読みますが、本の紹介を手掛けるようになったことで、かつて読んだ本をさらにもう一度手に取る機会にも恵まれました。その結果、改めて気がついたことがあります。それは、どの物語にも読むたびに新しい発見があるということです。繰り返し読み込んだ上で本の紹介文を書くわけですから、基本的に同じ本を複数回読むことになります。その中で、最初に読んだ時の印象と再読後の感じ方の間に最も大きな差異が生じた物語のひとつが、『切羽へ』です。この物語は第139回の直木賞を受賞していますから、世間的には高い評価を受けた作品です。しかし、およそ6年前に初めて読んだときには、私にはそれほどの作品だとは思えませんでした。よく、淡々と過ぎて行く静かな日常を描いた中に、登場人物の心の機微が鮮やかに描き出されているというような類の書評を目にします。女性作家の作品にこのような評価を得るものが多く見られるように思いますが、『切羽へ』の帯にはまさにそんな評が記されています。確かに、物語の語り手である主人公と、彼女が住む島にやって来た男との関係性にはこの書評の文句があてはまるかもしれません。しかし、その他の登場人物たちの行動はそれなりに派手で、とても帯に記された書評の通りだとは言い難いと感じたのです。物語の中核にあるはずの、主人公と島にやって来た男との関係性の静けさと、彼らを取り巻く人々との騒々しさに強い違和感をもったのです。私自身の文章を読み解く力の不足を棚に上げながらも、『切羽へ』からはまとまりに欠けた作品であるとの印象を受けたことを覚えています。
 しかし、最近になって『切羽へ』を再読したところ、その印象に大きな変化が生じました。主人公と、彼女を取り巻く人々との関係性が実に巧みに描かれていることに、改めて気付かされたのです。例えば主人公の母親について。タイトルにある「切羽」とは、「トンネルを掘っていくいちばん先」を意味します。あるとき、母が父の誕生日に木彫りのマリア像を贈ります。その像をどこで見つけてきたのかと父が訊ねると、母は「切羽までどんどん歩いていくとたい」と答えます。また、主人公が男と二人で廃墟のベランダに立って話をする場面でも同様に、彼女の母の謎めいた行動が描かれます。廃墟のベランダに立ちながら、そこから見える、以前は坑道として掘り進められていたトンネルに向けて、主人公が指を差します。「いつか、母があの中で、十字架を拾ってきたとですよ」という台詞に続いて、「綺麗か、めずらしかものやった。こがんものばどがんして見つけてくるとかねと父が驚いて、そしたら母は、切羽まで歩いていくとたい、と自慢したと」と言います。このふたつの場面は、主人公の母が「切羽」で男との逢瀬に興じていたことを暗示しているように思えるのです。他の登場人物についても同様に、少しずつ物語の主題に絡む経験が語られていることに気付いたとき、私は改めてこの物語の奥行きの深さに面白さを感じることが出来たのです。皆さんにもぜひご一読いただきたい作品です。
 冒頭に書いたような、他者に対する感謝の気持ちは積極的に口にして、相手に伝えるべきものだと私は思っています。いくら心の中で念じてみても、言葉や文字に起こさなければ相手に伝わるはずなどありません。相手にとって嬉しいはずの想いなら、どんどん伝えてみて下さい。きっとその人との間に、今よりももっと深い絆を結ぶことが出来るはずです。しかしその反面、人には誰にでも決して口にしてはならない、隠し通さなければならない想いがあります。相手をむやみに戸惑わせ、悲しませるだけの想いなら、いっそ闇に葬ってしまうべきなのです。『切羽へ』の主人公は、まさにこのことを実践します。「身支度をすませておもてに出た。クロッカスの芽が出はじめていた。そのそばの土を少し掘り、小さな木切れのクルスを埋め」て、自らの想いを封印するのです。皆さん、どうでしょう。大晦日の今日、今年一年の様々な思いを整理してみては。さあ、今年もまもなく終わります。時間がありませんよ。直接、または電話やメールを駆使して、感謝すべき相手には素直に「ありがとう」と伝えましょう。それが終わったら、今度はシャベルと因縁の品物をこっそりと持ち出しましょう。その姿を誰にも見られないように注意しながら、庭の片隅に穴を掘って因縁の品物を埋めて下さい。どうしても人目につきそうなら、夜を待って行動を起こすのも悪くありません。あっ、自然に還らないものは埋めてはいけませんよ。それは環境破壊というものです。こっそりと、燃えないゴミの中に紛れ込ませることをお勧めします。さあ、今こそ実行のときです。健闘を祈ります。えっ? そう言う私には闇に葬るべきものがないのかと? ありませんよ、私には。いやいや、本当です。えっ? 「人には誰にでも」って自分で書いているじゃないかって? それは私以外の人はってことですよ。本当です。本当に、本当です。本当ですってば。 
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036-8124               青森県弘前市石川長者森61-1  東奥義塾高等学校 TEL:0172-92-4111 FAX:0172-92-4116

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