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〇1277『職 1991-1995』〇

『職 1991-1995』
著者名:橋口譲二 出版社:メディアファクトリー 文責 美術 木村顕彦

 本書は写真集である。写真家・橋口譲二の「日本人シリーズ」のうちの一冊だ。
 「ドアマン」や「蔵人」、「バット職人」・・・様々な職に就いている人たちの肖像写真が掲載されている。そしてその横には、彼らに投げかけられた「キャリア」や「収入」、「今まで行った一番遠い所」というような定型質問に対する回答が並ぶ。
 また本書では、ページを並べて、同じ職業に就く二人が紹介されている。二人、とはその職業(職場)の先輩・後輩である。その人の年齢、キャリアによって、仕事に対する姿勢や捉え方は当然変わってくる。その対比が面白い。
 さて、下世話ながらやはり気になるのは、先に述べた定型質問のうちの「収入」の項目だ。本書タイトルにあるように、本書の取材期間は1991年から1995年だ。それを踏まえながら読んでも「収入というのは、外から見ていてもわからないものだな」という印象が強い。他人と比較すると悲劇が始まる。ただ目の前にある仕事に取り組むべし、ということか。
 加えて、本書巻末にある解説を脚本家・山田太一が担当していることにも注目したい。その解説は、直接的に本書の内容に触れたものではないが、なかなか考えさせられる内容なのでこの場で紹介する。そこで語られている内容は、要約すると次のようなものだ。
 「現在、都会に住む人は、生存の基本を支える衣食住の生産に、直接関わることの少ない生活を送っている。しかし、それを感傷的に肥大させ、自分は果たして無人島に漂着して生き残れるだろうかと、見当違いな自己否定に走るのは神経症とでもいう他はない。自給自足の能力を失ったからといってなんだというのか。人類は自給自足の貧困を克服して近代に至ったのではなかったのか。」そのような内容を山田は述べている。この主張は、本書の解説よりも、『それぞれの時』という橋口譲二の著作の内容に沿ったものにも感じてしまうが、それを語り出すとキリがないのでやめておく。
 それよりも、山田によるこの解説を読んでいて私の頭の中に登場したのは、脚本家の倉本聰である。・・・そうなってくると、もはや橋口の写真集の書評ではなくなってくるが、お許し願いたい。
 脚本家としての倉本聰の代表作は、テレビドラマ『北の国から』(フジテレビ系列)である。田中邦衛演じる黒板五郎が、親子3人で、自然あふれる北海道の富良野で暮らすさまを描いたそのテレビドラマは、名作として名高い。都会生活・文明生活ではなく、自然の中でたくましく生きることの困難、そしてそのことに対する讃歌。それは『北の国から』に限らず、倉本の作品に一環して流れるものだ。
 倉本の作品を観ていると、ヒヨワなお前(私)は、いま自然に放り込まれたらたくましく生きていけるか?と問い掛けられている気持ちになる。これは全くの妄想に過ぎないのだが。私は倉本の作品のファンでありながら、どことなくそこに脅迫めいた(?)主張を感じ取り、一歩引いた目で彼の手によるテレビドラマを観ていたのも事実である。
 と、ここで立ち止まって、山田太一による先述の解説文に戻ってみる。「自分は果たして無人島に漂着して生き残れるだろうか」。現代人が潜在的に感じているであろうその問いを山田は「見当違いな自己否定」と述べる。私はその言葉を聞いて安心した(・・・都会とは言えない青森県に住んでいる人間だが)。「自給自足の能力を失ったからといってなんだというのか。人類は自給自足の貧困を克服して近代に至ったのではなかったのか。」そう、自分は、目の前の生活の中で、おのおのの「職」に向き合えばいいのだ。山田の解説は、そう言って背中を押してくれているものだった。ある意味で、倉本的な考えが頭の片隅にあった私は、山田のこの解説によって心が軽くなった。
 それにしても、山田太一と倉本聰という、日本を代表する二人の脚本家の自給自足に対する捉え方が極めて対照的なのは面白い。
 ・・・だいぶ文章が長くなったが、もうここまできたら更に脱線することにしたい。
 唐突だが、ここで一つの展覧会の紹介をする。それは2012年から2013年にかけて開催された『尊厳の芸術』という展覧会である。
 東京、福島、仙台、沖縄、広島を巡回したその展覧会に出品された作品は、プロのアーティストがつくったものではない。製作者は、戦時中に強制収容所に入れられた日系アメリカ人たちだ。人間をしての尊厳が奪われる極限の生活の中で、彼らは何をしたか。彼らは仏壇やブローチ、さらにはナイフ、そろばんなどを、廃材でつくり始めたのだった。戦後忘れ去られたその遺物は、収容者の遺族によって発見され、多くの人々からの反響を受け、それらの展示が決定する。それが『尊厳の芸術』展だった。
 その展覧会は、2012年にテレビ『日曜美術館』(Eテレ)でも紹介された。番組のゲストは、倉本聰。なにもない極限の生活のなかで、かつての日本人(日系アメリカ人)が、素晴らしいものをつくっていた。そのことを倉本は賛美していた。
 その展覧会を私は仙台で鑑賞した。感想としては、倉本のそれとほぼ変わらない。あまりにもすごすぎる、というしかない展示だった。と、その会場で配られた展示チラシのある一箇所に目がとまる。なんとそのチラシには、山田太一による推薦文が掲載されていたのだ。「昔の日本人が苦難の日々にどのように耐え、いかに誇りを失わなかったか。その見事な証拠が次々と展開する。」そこにはそう書かれていた。
 ここでも山田と倉本という二人の脚本家が登場することに驚く。同じものを観て、彼らはどのような視点で展示物を鑑賞したのだろうか。憶測に過ぎないことをこれ以上書くのは気が引けるので、このくらいで筆を置く。
 橋口譲二の写真集『職』は、私に様々なことを考えるきっかけを与えてくれたのであった・・・。 
 


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