『藤倉英幸のイラストレーションたち 山の村 海の村』
著者名:藤倉英幸 出版社:北海タイムス社
文責 美術 木村顕彦
ずっと前に、この書評の場で『藤倉英幸はり絵作品集 四季彩紀行』(1997年刊)を紹介したことがある。
本書は、同じ画家・藤倉英幸による第一作品集(1986年刊)だ。
藤倉英幸は、北海道を拠点に活動をしている画家・イラストレーター。数点の作品集を出版し、全国にファンも多い。北海道のお菓子や、牛乳のパッケージにより、無意識に藤倉の作品を目にしている方もおられるはずだ。
彼の作品の技法の多くは、「はり絵」である。描かれるモチーフは、(おそらく多くは北海道の)雄大な風景。先述の作品集『四季彩紀行』では、その技法による風景画の魅力がぎっしりと詰まっている。
それに対して、第一作品集である本書『山の村 海の村』はというと。現在の藤倉の作風とは違って、あえて言えば原田泰治の作風に通じるような「切り絵」の数々である。『四季彩紀行』によって初めて藤倉の名前を知った私からすれば、本書で紹介されている彼の作品はまるで別人の手によるものように感じてしまうほどだ。
さて、ここまでで、「切り絵」と「はり絵」という技法名が登場しているが、どちらも、紙を切ってのりで貼りつけることにかわりはない。ただ、彼の初期作品(つまり本書)は、カッターによるシャープな切れ味を特徴にしているのに対し、近年の作品(つまり、『四季彩紀行』刊行時から現在に至る風景画シリーズの作風)の輪郭線は、無造作に紙をちぎったように柔らかい表情をのぞかせている。
本書刊行時の「切り絵」時代から、「はり絵」時代に至るあいだに、藤倉に何があったのだろうか。
本書『山の村 海の村』には、現在の藤倉とはまた違った、作品の魅力がある。
« 〇1405『日本国憲法を口語訳してみたら』〇 l ホーム l 〇1403『高校入試』〇 »