『北井一夫写真集 三里塚』
著者名:北井一夫 出版社:のら社 文責 美術 木村顕彦
北井一夫(1944-)。写真家。
彼が、1969年から71年にかけて撮ったテーマがある。
それが、三里塚。
成田空港建設反対を訴えた、地元住民による運動だ。
それは、運動というよりは、闘争だった。
農民と機動隊の闘い。それは、土地と暮らしを守るための、国家権力に対する当然の抵抗だった。
当時、多くの若者が三里塚に向かい、運動に加わった。
写真家やジャーナリストも例外ではなかった。
鎌田慧、小川紳介、三留理男、福島菊次郎、そして北井一夫・・・。
彼ら表現者がその闘争を記録したからこそ、我々は過去のことを知ることができる。
さて、北井一夫の撮影した三里塚シリーズは、本書がオリジナル版(1971年刊)である。
ワイズ出版から2000年に復刻されたが、それも2014年現在では版元品切れの状態のようだ。
ただし、『いつか見た風景』(冬青社・2012年)という、北井一夫の代表作を集めた写真集には三里塚シリーズの一部が収録されているので、そちらを見ていただいてもいいだろう。
しかしながら、本書(オリジナル版)は、ハーフトーンが飛ばされ、明暗がくっきりとした仕上がりになっているのが大きな特徴だ。
なんだか、幻を見ているような。そんな感じの写真だ。
先述の、三留理男と福島菊次郎(共に写真家)が撮影した三里塚と、北井が撮ったそれとの違いも記したい。
三留・福島の写真には、機動隊の姿が多いが、北井の写真は機動隊の姿よりも、地面に座る農民の姿が目立つ。
同じ場所(三里塚)を撮っても、撮影者によっても違うし、さらにはプリントの仕方によって(本書と『いつか見た風景』を比べると)も見え方が変わる。そのことは大きな発見だった。
写真史のみならず、日本の歴史の中で考えても最重要の一冊である。