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東奥義塾高等学校 公式ブログ

○1572『智恵子抄』○

 『智恵子抄』
著者名:高村光太郎 出版社:新潮社 文責 地歴公民 加藤真之

 4年前、修学旅行の下見でカナダに出張しました。
 専門教科にかかわらず、英語が得意かそうでないかは個人によって大きな差があると思います。私は社会科の教師ですが、英語は苦手です。いわゆる受験英語ならばまあ何とかなるのかもしれませんが、会話となるとまるで駄目です。ネイティブスピーカーを目の前にすると、英語が苦手な人間特有な、「金縛り」にあったように動けなくなります。頭の中に言いたいことの部分的な単語は出てくるのに、それが文章としてのまとまりをもつには至りません。いや、この表現は間違っているのでしょうね。本当に英語を話せる人であれば、頭の中で文章を構築するまでもなく、言葉が次々と口をついて出てくるものなのでしょう。例えば私たちが日本語を話すとき、いちいち文章を頭の中で作ってから確認し、口にする場合は少ないはずです。よほど言葉を選ぶ相手や状況でなければ、そんな話し方はしないでしょう。というわけで、私は英語を話すことにある種のコンプレックスを持っています。だからこそ克服したいという思いも強く、学校教育において英語圏への修学旅行を作るのは、何も英語科の先生だけの仕事ではないという思いを持っています。英語圏への修学旅行ですから、英語を話す機会を生徒たちにできるだけ多く提供したい。そのうえで、その国の自然や文化や人々とのつながりを、社会科的な観点から構築することもできるのだということを証明したい。そう意気込んで修学旅行の行程を吟味しましたし、その安全を確認するための下見も、万全の態勢で行うように心がけました。ただひとつ誤算だったのは、青森空港から始まる下見のすべての日程を、ほぼ1人でこなさなければならなくなったことです。
 青森空港から羽田、羽田から成田、そして成田からバンクーバーまでの旅程は順調に進みましたが、バンクーバー空港に到着してからが大変でした。バンクーバーからビクトリアに向かう便が欠航になったのです。天気は快晴、風もありません。時間にも余裕があり、飛行機が飛ばないことなど考えもしませんでした。私はバンクーバーに到着後、時間に余裕はあるものの、すぐに次の出発ロビーに向かいました。出発ロビーに到着すると、そこには客の姿がまばらでした。出発時間までにはまだ余裕があるのですから、当然のことです。時間に余裕はあっても、私の心に余裕はありませんでした。よく聞き取れもしない構内放送に常に耳をそばだて、小さな情報も聞き逃さないように注意しました。時間は少しずつで定刻に近づいていきます。もうすぐ搭乗手続きのアナウンスがあるだろうと思ってさらに注意深く聞いていましたが、私が乗るはずの便名がいっこうに案内されません。そしてとうとう、定刻になってしまったのです。目の前のカウンター越しには、1時間以上も前から小型プロペラ機が停まったままです。私は漠然と、その機体に乗ることになるのだろうと予想し、それに乗るためのアナウンスを待っていたのですが、一体どうしたことでしょう。とうとう必要に迫られ、カウンターの女性にチケットを見せながら、この便はどうなっているのかと問いかけました。英語が不得意な皆さんにならお分かりいただけるでしょうか。このとき、私の心臓はバクバクと鼓動し、飛行機よりも先に私の胸から外に飛び出してしまいそうでした。カウンターの女性は何度か私のたどたどしい英語を聞き返した後ようやく理解してくれたらしく、「ごめんなさい、その便は欠航になりました」と教えてくれました。おそらく欠航のアナウンスはきちんと為されていたのだと思います。それを私が聞き逃したのでしょう。英語力のなさがこの時ほど情けなく思えたことはありません。「もっと勉強しときゃよかった」と痛切に思いました。おそらく私の両肩は、床につきそうなくらいに力なく落ち込んでいたのでしょう。カウンターの女性はいかにも申し訳なさそうに、私を元気づける言葉(多分ですが)をかけてくれながら、すぐに次の便に乗る手はずを整えてくれました。結局、その後2時間ほどして私は機上の人となることができました。ビクトリア空港では旅行代理店の現地スタッフが心配しながら待っていてくれましたし、私の話を聞いて大変だったねといたわってもくれました。結果的には大事に至りませんでしたが、言葉が通じないことの心細さは忘れることができません。その後の旅程でも、1人で英語と悪戦苦闘した場面は数知れませんでした。その日その日の日程を終え、どっと疲れてベッドに倒れこむ毎日でした。
 英語の壁に直面して打ちひしがれた私を救ってくれたものは、やはり日本語でした。旅立つにあたって何か本を1冊持って行こうと思い立ち、時間がないなか本棚から取り出したのは『智恵子抄』でした。ビクトリアやバンクーバーのホテルで1人、寝る前に開いたこの詩集の1ページ1ページ、一言一言に心が揺さぶられました。こんなにも感情に満ちた言葉を、こんなにもお互いの命を大切にするために、こんなにも赤裸々に綴った作品の素晴らしさを、私は改めて思い知らされました。
「いやなんです
あなたのいってしまうのが―」
「人に」という作品の、あまりにも有名な書き出しです。敢えて行を改めて本来の文章表現のままに書いたのは、「いやなんです」という熱のこもった言葉の後に続く小さな冷却が、行間にうまく機能していると思えたからです。一人の女性を自分だけのものにしたいという感情を、隠すことなくぶつけることができる作者の幸福を、私はこの書き出しの文章に感じ取ることができます。そしてその感情の生まれる理由が「あなたのいってしまう」ことにあるのだと自覚しながら、なおも相手を愛する自分の感情の確かさを確認している。私には、この2行をそんな風に読むことができます。そうです。言葉は自分の感情を人に伝えるためにあるのです。言葉がうまく通じなくて相手に自分を理解してもらえないという状況は、何とも歯がゆく、苦しいものです。この夜、私はまさに言葉が通じないことへの不安と絶望の中にありました。その反面、言葉を尽くせば自分を分かってもらえる、自分の思いが通じると感じられることは、自分の将来をどのようにでも作り出せる可能性に満ちたものだということに気づかされたのです。言葉によって互いに理解を深め合い、分かり合えることは、誰かと一緒によりよい未来を築いていけることにほかなりません。これを希望と呼ばずに何と呼ぶのでしょうか。言葉による未来への希望を、私は『智恵子抄』から教わったのです。
バンクーバーの夜の中、ベッドに入った私は、日本に帰ったら家族に言葉できちんと伝えようと思いました。いつもありがとう。そして、本当に大切だと。
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