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○1589『ある小さなスズメの記録』○

 『ある小さなスズメの記録』
著者名:クレア・キップス 翻訳者:梨木香歩 出版社:文芸春秋 文責 地歴公民 加藤真之

 校舎から第三体育館に抜ける昇降口の柱に、毎年初夏になるとツバメの番(つがい)が巣を作ります。柱の高い位置に巣があるため、普段は巣の中にいるはずの雛の姿を見ることはできません。しかし運良く餌をくわえた親鳥が帰還するタイミングに出くわすと、ピイピイという鳴き声を聞くことができるのと同時に、巣の中から突き出された黄色いくちばしの一端を見ることができます。ああ、今年も帰ってきてくれたんだなと、何となくほっとする一瞬です。私はツバメが飛ぶ姿を見るのがとても好きです。羽ばたく鳥の姿も美しいと思いますが、空気を切り分けるように滑空し、時折身をひるがえして方向転換するツバメの姿に潔さを感じるのです。日本の空をツバメが飛び交う季節もまた、私の中に良いイメージを掻き立ててくれているのかもしれません。夏空の青の中を黒い矢が真っ直ぐに飛んでいく。そうかと思うとひらと白をのぞかせて蝶のように舞う。そんな飛び方ができる鳥はそう多くはいません。まるで李白の詩の中に出てくるような色のコントラストの妙に、見ていて心が弾みます。
 つい先日のことです。私は部活動の合宿のために学校に泊まり込んでいました。合宿も最終日を迎えた日の昼、昼食をとるために職員室を出て家庭科室にむかおうとした時でした。何やらバサバサと音がするので周囲を見渡すと、ツバメが1羽、よろよろと羽ばたいては窓ガラスに体を打ちつけている光景を目の当たりにしました。その場所は今年も巣が作られた位置の上空、2階にあたります。確かに空間的には巣に近いのですが、そこには窓ガラスが障害となって、行く手を阻んでいます。私は悪い予感がしました。もう何年もこの学校に勤務していて、同じように昇降口から迷い込んだ鳥が無事に出ていくことができなかった事例をたくさん知っていたからです。このツバメも生きて家に帰ることができなくなってしまうのではないか、そう思いました。私は窓に駆け寄りました。そして出来る限り窓を広く開け放ちました。そこからバメが出ていくのを期待したのですが、私が近づいたことで、ツバメは一旦窓を離れて校舎の中に戻ってしまいました。そうなると状況は難しくなります。行動の選択肢が増えてしまうのか、同じ窓に近づくことさえ出来なくなってしまうのです。ツバメは明らかに戸惑いながらも、昇降口のフロアの天井に渡された数条のワイヤーの一本にとまりました。きょろきょろと周囲を見回しては寂しげな声で鳴き続けています。その姿には心細さがはっきりと表れているように思いました。私はどうしたものかと思案しました。あれこれと方法を考えましたが、自由に飛び回るツバメを傷つけずに外に逃がす方法も道具も、私は持ち合わせていませんでした。
 『ある小さなスズメの記録』は、筆者である老婦人と生まれながらにして障害を負ったスズメとの出会いから始まります。1940年の出会いから、スズメの死による別れまでの12年と7週間と4日間の出来事を綴った物語です。時間を追った出来事の羅列という点において、これはドキュメンタリーと位置付けることができるのかもしれません。しかし、私はあえて物語という言葉を使いたいと思っています。なぜなら作者とスズメとの間に、それこそ人間同士に見られるような感情のやり取りがあるように思えたからです。時は第二次世界大戦中。作者は戦火におびえながら日々の生活を営む中で、スズメを守ることに意を割きます。しかしそれは同時に、彼女にとってはスズメに守られていることも意味していたように思います。スズメを守ることで、自らも知らず知らずのうちに生きることに固執していられたのではないか、そう思うのです。訳者の如何によらないことだと思いますが、作者が生きることに執着するような記述はあまり見当たりません。しかしこの物語を読む限りにおいて、戦争という極限状態の中を、作者が希望をもって生き抜くことができたのは厳然たる事実です。老婦人にとっては、守らなければならない対象としてスズメがいたことによって、自らも生きなければならなくなった。そして、辛く不安なときにでもスズメに慰められることで立ち直ることができた。読み手によって様々な見解が許されるところだと思いますが、私はそんな支え合いの構造の中に、この物語を読み込むことができると思うのです。小さな生き物との関係においても、人は生きることの価値を見出すことができる。私はこの物語からそう教えられたことを思い出しました。
私はまだ諦めるわけにはいきませんでした。せめてツバメが再び硝子窓に体を打ち続けるようなことが起きないように、その空間に面する窓という窓を開け放とうと走りました。それ以外、私にできることは何もありませんでした。私は最初に開けた窓と同じ高さ、つまり2階の窓という窓を開けました。この日は気温が34度まで上がっていたということを後で知りましたが、この時すでに、私の体は汗みずくになっていました。今度は階段を駆け下りました。1階の窓を開けるためです。走りながらふと見上げると、ツバメはまだワイヤーの上にとまったまま、鳴き続けています。そのときです。私が最初に開けた窓のあたりから、別の鳥の鳴き声が聞こえました。振り仰いで見ると、窓の外を何度も何度も黒い影が鳴きながら往復しているのが見えました。ツバメははその声に気がついているのか。私はフロアの天井を見上げました。そこには身を乗り出すように、じっと最初の窓の方を見つめたツバメがいました。そう、もう1羽の呼びかけに気がついたのです。私の胸は弾みました。きっとうまくいく、そう思った時のことです。ツバメはひとつピイと鳴くと、窓から吹き込む風にすっと身を任せました。そのまま風に乗ると、吸い込まれるように窓の外に飛び出しました。あまりにも突然のことに、私はその場に立ち尽くしました。しかし少しずつ、胸の中が温められていくのを感じました。その間も、目はツバメが消えていった窓の方を見ていました。そんな私に、2羽のツバメは寄り添うようにもつれあうように、窓の外を一緒に飛ぶ姿を何度か見せてくれたのです。私は思わず笑い出しました。これほど素直な気持ちで笑えたのは久しぶりでした。こんなささやかな喜びの中にこそ、人は生きることの価値を見出すことができるのかもしれない。かつて『ある小さなスズメの記録』を読んだときと同じ思いが、私の胸に湧き上がってきたのです。
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