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○1604『校本宮沢賢治全集第二巻』○

校本宮沢賢治全集第二巻』
著者名:宮沢賢治 出版社:筑摩書房 文責 地歴公民 加藤真之

 私は小学校6年生のとき、担任の先生からたくさんのことを教わりました。先生はすべての教科において、授業の内容を私たちに印象深く伝えるために様々な工夫をしてくれました。当時のことを思いかえしてみると、準備に相当の時間を割いていたものと推測できる授業がいくつもあったことに思い至ります。そんな工夫の中で最も鮮明に覚えているのが、授業中の読み聞かせです。教科書を用いた教科指導はもちろん大切ですが、既存の知識にとらわれないものの考え方や、少ない情報から豊かな光景を思い描く想像力をたくましくすることも同様に大切なものだと私は思います。本の読み聞かせにおいて唯一頼ることができる情報は、耳から入ってくる読み手の声だけです。その声を頼りに、自分の中に経験的に蓄積された情報を総動員して、物語の中に描かれた場面を思い描こうと努力します。この作業がうまく進まなければ、本の読み聞かせをまったく楽しめずに時間を費やしてしまうことになります。先生の読み聞かせの授業は、幼い私たちの想像力を鍛えてくれる働きをもっていたと思えるのです。
 先生は国語の授業に限らず、折を見て本を読み聞かせてくれました。読んでくれる作品の中で最も多かったのが、宮沢賢治の童話でした。『雪渡り』『注文の多い料理店』『やまなし』『貝の火』『グスコーブドリの伝記』。どれも魅力的な作品ばかりです。これらの作品名を目にして、皆さんの中にも物語に触れた記憶が甦ってくるのではないでしょうか。小学6年生当時の私は、これらの物語世界にのめりこみました。人間の世界と動物の世界を結び、人間の子と狐の子が友情を育む不思議な話。人々を救うために自らの命を犠牲にして、天候を回復させる話。どの物語にも自然に対する畏敬と、他者に対する愛情が込められています。幼い私はこの点に賢治の作品の奥深さを感じましたし、自分でも読んでみたいと思うようになりました。そこで、先生が持っている賢治の本を僕に貸して下さいとお願いしました。先生がそれ以前に、宮沢賢治の全集を購入したという話をしてくれていたのを覚えていたのです。それが筑摩書房刊『校本宮沢賢治全集』でした。この全集は全14巻、第12巻が上下巻に分かれているため、全部で15冊から成っています。童話や詩などの分野ごとに編まれているため、特に読みたい分野の作品を載せた巻を選ぶことができるのです。私は全巻貸してほしいとお願いしました。小学生が読むには途方もない分量になるからでしょう。先生は驚いていました。それでも私が何とか貸してほしいとお願いすると、先生は快く了解してくれたのです。それにしても、先生は大切な本をよく私のような子どもに貸してくれたものだと、いまさらながら頭が下がる思いです。
 翌日、先生が学校に全集をもってきてくれました。子どもの手に本は重く、それが15冊もあるのですから、私一人ではとても運べませんでした。しかも私の家は学区の端にあり、重い荷物を抱えたまま歩いて帰るには、あまりにも過酷な状況でした。今の時代であれば大人がすっと手を差し伸べて、車で運んでくれるなどの手段を講じてくれたかもしれません。しかし当時の私には、自分でお願いしたことなのだから自分で何とかしなければならないという感覚があったのです。私は荷物を運ぶための一輪車(あれは一般的に何と呼べばいいのでしょうか)をもってくるため、一旦帰宅しました。とても暑い日だったことを覚えています。物置小屋から一輪車を引っ張り出し、急いで学校に引き返す私の体からは、大量の汗が吹き出しました。それでも本を借りて読めることが嬉しくて嬉しくて、そんな苦労などまったく辛いとは思いませんでした。学校に着くと、先生が昇降口で待ってくれていました。そしてゆっくり読んで構わないと言ってくれたのです。私の心は感謝の気持ちでいっぱいになりました。
 私は毎日のように机に向かい、全集を読みふけりました。しかし、何かそこから得たものを挙げろと言われても、私にはうまく言葉にすることができません。全集から得たものはあまりに多く、多種多様で、とても短い言葉でまとめることなどできないのです。その一方で、私にとって大切な意味をもつ作品は何かと問われたら、いくつもの作品名を挙げることができます。その中で最も強く私の心を揺さぶった作品の一つが、第二巻に収められている『永訣の朝』です。今や複数の教科書に掲載されているこの詩の力が、当時も今も、何度読み返しても色褪せることなく、むしろさらに大きな価値をもって、私の心に強い衝撃となって押し寄せて来るのです。描かれているのは死の場面です。そこには悲しみがあふれています。しかしそこに横たわっているものは悲しみだけではありません。悲しみをしのいで余りある、大切な人に対するいたわりと慈しみが作品全体を温かく包み込んでいます。この詩を読んでいると、人が人を想う温かさが、すべての悲しみを静かに浄化する様子を目の当たりにすることができるように思えるのです。その他の作品に触れてみても同じような印象が残りました。自然に対する畏敬と、他者に対する愛情。形態を問わず、賢治の作品にはこの2つの思いが流れていることに改めて驚かされました。賢治の作品に触れたことから、こんな素晴らしい作品群が存在する世界に生きていることを歓びつつ、この全集を貸して下さった先生をはじめ、周囲の人々に感謝する想いを忘れずに生きることの大切さを学ばせてもらったように思います。
 
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