『兄小林秀雄との対話 人生について』
著者名:高見沢潤子 出版社:講談社 文責 美術 木村顕彦
本書は講談社現代新書の一冊だ。
著者は、高見沢潤子。批評家・小林秀雄(1902-1983)の妹であり、かつ『のらくろ』で知られる漫画家・田河水泡の妻でもある人物だ。
本書は、小林と高見沢の会話の形式をとっている。その会話を通じて、美についてや歴史についてなど、小林秀雄という人物が物事をどう捉えていたかを今に伝える一冊である。
個性についての記述が特に興味深かった。引用する。
「赤んぼうにだってひらめきはある。だけど、ひらめきだけじゃ個性といえないよ。そのひらめきが社会的なものにもまれて、はじめて個性が出てくるのだ。個性というものは、ひとりよがりの、人のいうことをすこしもきかないような、そんな傲慢な態度の中では生まれもしないし成長もしない。すなおな態度で社会と交わらなければ現れない。」
また、私が住んでいる弘前市の桜まつりのついての記述を見つけ、おっと思う。そこには「おれは、弘前のさくらを見にいって思ったんだが、お城のさくらね、みごとなさくらで、たいへんな人出だ」と、褒めている。
弘前市(弘前公園)の桜は、ほとんどがソメイヨシノだ。実は、小林は『小林秀雄 学生との対話』(新潮社刊)の中で、ソメイヨシノを「桜でも一番低級な桜です」と述べている。私はその記述を読んだ時に、「ソメイヨシノ=弘前公園の桜」をバカにされたようで傷ついたのだが、本書で弘前公園の桜を褒めているので、単純にも機嫌を取り戻したのであった・・・。
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