ToO Gijuku Topics(東奥義塾)
東奥義塾高等学校 公式ブログ

○1625『新編宮沢賢治詩集』○

『新編宮沢賢治詩集』
著者名:宮沢賢治 出版社:新潮社 文責 地歴公民 加藤真之

 小説。詩。エッセイ。どの形態をとっても、文章の書き出しは難しいものです。書き出し、あるいは最初の一文で、その文章に対する読み手の態度が大方決まってしまうと言っても差し支えないでしょう。この理由から、読み手を自分の文章のなかに引きずり込みたいという思いが強ければ強いほど、ありとあらゆる文句を考えても満足することができずに思い悩むことになるわけです。そろそろ各大学では推薦入試を実施する期日が近づいてきていることから、我々教師は推薦受検を予定している生徒に対し、この時期から小論文の指導を始めます。実際には1学年次から2年後の受験を見越して小論文の書き方を練習させますから、付焼刃的な準備ではありません。それにしても、受験する大学が具体的になれば小論文の書き方を学ぼうとする態度にも熱が入るものです。可能な限り合格に近い小論文を書こうとすればするほど、やはり書出しの文章はなかなかしっくりくるものが思いつかないようです。それさえうまくいけば、意外とするすると小論文を書き進められることもあります。それだけ作品の書出しが作品そのものに与える影響力は大きいということになります。
 書き出しの文章のうちもっとも有名なもののひとつが夏目漱石の『草枕』であり、古典に題材を求めれば『平家物語』ということになるのかもしれません。これらの作品の書き出しは学校教育のなかで暗唱させられるか、あるいはその素晴らしさゆえに誰の心にも残りやすいものなのかもしれません。私が個人的にその秀逸さにうなった作品も数多くあります。その中の一つ、池田満寿夫作『エーゲ海に捧ぐ』(昭和52年上半期、第77回芥川賞受賞)の書き出しの一文を紹介しましょう。
 「アニタの足の裏に一匹の蠅が留まっている。」
 文章全体の中で書き出しが果たすべき最大の役割は、読者に続きを読み進めたいと思わせることができるかどうかにあります。上記の書き出しを読んだ皆さんはどうでしょうか。私は見事に次を読みたいと思わされました。足の裏に蠅が留まっているということは、アニタという名の女性はどこかに横たわっているはずです。眠っているのかもしれません。仮に眠っているのだとしたら、蠅が足の裏を這いずり回っても目を覚まさないほど深い眠りのなかに沈んでいるのでしょう。いやもしかしたら、アニタはすでに死んでしまっているのかもしれません。アニタの遺体を目の前にした主人公が、アニタの足の裏に蠅が留まっている様子を目の当たりにして、改めてアニタの死に気づかされている場面を描いているのでないでしょうか。そう思えるのは、遺体と蠅にはどこか通底するイメージがあるからです。いずれにしてもこの書き出しの一文は、読み手である私に様々な想像の余地を与えてくれています。私はその答えが欲しくて、引きずり込まれるように文章を読み進めていってしまうのです。
 「わたくしといふ現象は 仮定された有機交流電燈の ひとつの青い照明です」
 これが宮沢賢治の『心象スケッチ 春と修羅』の序、すなわち詩集全体の書き出しにあたる文章です。どんなものであれ、文章はその読み手に自由な想像や発想の余地を与える力を秘めています。私がこの文章に初めて接したのは小学生の頃ですが、それ以来、この文章を読み返すたびに今も変わらず同じ「想像の景色」の中に放り込まれます。私という存在は、自然界におけるひとつの現象にすぎません。自然の営み全体から見れば、それはそれは些細な存在でしかないのです。しかし、そこに恐れはありません。自然は私が物質的に生きていても死んでいても、いつでも優しく包み込んでくれていることには変わりがないからです。私がそんな思考の中に思い描く「想像の景色」とは、暗闇の中にどこまでも落ちていく私が闇に包まれる瞬間、ふわりと青い光を放つという光景です。私という存在は、取るに足らないちっぽけなものです。しかし小さいけれども青い光を放つことができます。ひとつの青い照明として、誰かの足元を照らす光になれればそれでいいのではないか。『春と修羅』の書き出しの文章はそんな私の存在を、最後のところで肯定的に受け止めることを許してくれているのです。そしてもっともっと自分を肯定してもらいたくて、私は賢治が紡ぐ言葉の糸をたどって行ってしまうのです。
 
最新記事
学校所在地
036-8124               青森県弘前市石川長者森61-1  東奥義塾高等学校 TEL:0172-92-4111 FAX:0172-92-4116

東奥義塾

Author:東奥義塾

AKB48の渡辺麻友の3rdシングル特典DVDに本校制服が!!

この公式ブログが「あおもりICTコンテスト2010(学校Webサイト部門)」で「最優秀賞」!!

東奥義塾個人情報保護方針→こちら

カレンダー
プルダウン 降順 昇順 年別

05月 | 2017年06月 | 07月
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -