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○1673『火車』○

 『火車』
著者名:宮部みゆき 出版社:新潮社 文責:地歴公民 加藤真之

 『火車』は、1992年7月に双葉社より刊行された作品です。現在私の手元にあるのは、1998年に新潮社から出された文庫本なので、出版社名の欄に新潮社と書かせてもらいました。1992年にしろ1998年にしろ、一昔を十年と考えると、『火車』は二昔前の作品ということになります。カード破産やローン地獄といった社会問題をテーマに挙げた作品であるにもかかわらず、今読んでも全く古さを感じません。それは今でも、いや今だからこそ、これらの問題に直面している人たちが少なからずいるからに他なりません。時間が経過すれば物語を構築する道具はどんどん新しい物に移行していくため、20年も経てば小説の中に登場する道具も古くなります。しかしこの物語の根底に流れるクレジットカードという名の道具は、私たちの生活の一部となっているどころか、なお一層欠かせないものとなってきました。使い方によってはとても便利なこの道具が、使用上のちょっとした誤りから恐ろしい結果を招く鍵となってしまう可能性を、この物語は教えてくれているのです。
 物語は主人公であり語り手の一人でもある休職中の刑事が、自らの意思で失踪した女性の、巧妙に隠された足取りを追うところから始まります。次第に女性の過去が明らかにされていくなか、どうやら同じ年頃の他人を殺害してはその人生を乗っ取って生き続けているらしいことが分かってきます。失踪した女性が、いつしか殺人事件の容疑者として追われるようになっていくのです。この展開を物語の軸に据えている点において、推理小説のジャンルに属すると言えることは間違いありません。しかしこの女性が抱えている問題として、クレジットカードをめぐる事象が詳しく説明されているという点において、経済小説と呼びうる要素もふんだんに盛り込まれています。この物語が書かれた二昔前から現在までその魅力を失わないのは、経済小説としての現実感が私たち読み手に差し迫って来るからに違いありません。
 推理小説にはよくあることですが、物語の深度が進むにつれ、犯罪者に対する私たち読者の共感が深まる場合があります。犯罪そのものは憎むべきことであるはずなのに、それを犯さなければならなかった人間の姿に心を揺さぶられてしまうのです。過去を背負い、本当の自分の姿を曝け出すことのできない女性は、人としてのささやかな幸せを手に入れることが出来そうになったときにこそ、再びその姿を消さなければならなくなるのです。自分を好きだと思ってくれる、愛してくれる人物に出会ったときこそ、身を隠さなければならなくなるのです。それも新たな人間を殺し、その人生を乗っ取るという方法で。これ以上の孤独があるでしょうか。そして、これ以上に強く恐ろしい意志があるでしょうか。そんな女性の姿をある意味において生き生きと、たっぷりの現実感をともなって描き切ることが出来ている作者の筆力に、ただただ脱帽するしかありません。
 孤独という名の深海に身を隠し、その身を押し潰さんばかりの水圧に耐えながらも、何とかして生き抜こうと「生」に執着する姿。この物語を読みながら、その逞しさに惹きつけられている自分に気付かされました。私を含め、それほどの覚悟をもって毎日の「生」を送ることが出来ている人間がどれほどいるでしょうか。私たちはいつの間にか、リスクの少ない恵まれた環境の中で、自分の足元に転がっている小さな幸せだけに固執して生きているのではないでしょうか。耐えるべき水圧がないために、そこから抜け出そうと「生」に固執する貪欲さが希薄になり過ぎているのではないでしょうか。そんなふうに自分の毎日の「生」を省みる契機を、この物語が与えてくれたように思えました。
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