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○1677『ホテルローヤル』○

 『ホテルローヤル』
著者名:桜木紫乃 出版社:集英社 文責:地歴公民 加藤真之

 第149回直木賞受賞作です。芥川賞または直木賞受賞作だからといって、すぐに作品を手にとって読むという習慣が私にはありません。しばらく時間が経って、ある種の熱が冷めてから読むことにしています。なぜなら、何らかの賞を受けた作品だとの先入観からできる限り解放された状態で、作品に触れたいと思うからです。そうは言っても、受賞作であるとの知識はすでに持ち合わせている状態で読み始めるわけですから、これこそ受賞作に相応しいと思ってみたりそうでなかったり、賞にまつわる様々な考察をしてしまうのも事実です。あくまでも個人的な見解ですが、最近は芥川賞の受賞作に「ん? これが?」と首をひねることが多くあります。まあ、作品に対する私の読み方が浅薄なばかりにそう思ってしまうのでしょうから、その作品が私の目には映らない魅力をもっているはずだと思うことにしています。
 私の大まかな理解としましては、芥川龍之介が短編に優れた作者だったことから、芥川賞の受賞作には比較的ページ数の少ない作品が選ばれてきました。短編でもなく長めの長編というのでもなく、何だか村上春樹が自分の創作活動について述べた台詞のようになってしまいますが、短めの長編といったところの作品が受賞してきたように思います。一方の直木賞は、芥川賞よりも少々娯楽性の強い、比較的ページ数の多い作品が選ばれてきているように思います。この傾向が生きていれば、『ホテルローヤル』は芥川賞に選ばれそうな作品ですが、直木賞の方を受賞しました。確かに、比較的平易な文章で読みやすく、連作短編のスタイルをもった本書は、ホテルを舞台にしているだけに男女の群像劇が展開されているという点において、娯楽性が色濃く読み取れるのかもしれません。いずれにしても面白い書き方をした作品だとの印象を、私のなかに残してくれた作品です。
 この作品の外見上の特徴については、おそらくいくつもの媒体を通じて述べられているところだと思いますが、あえて確認するつもりで述べておきます。これは、多かれ少なかれ北国のラブホテルに関わった人々の生活を切り取った物語です。前の作品でほんの少しだけ触れられた人物や出来事が、次の作品でクローズアップされて語られることで、リレーのバトンを繋いでいくように流れていく連作短編です。しかも、最初の物語から最後の物語に向けて時間軸がさかのぼっていく構成が試みられています。一つひとつの短い物語が、行き場のない孤独や日常への諦めを描いているために、どちらかというと曇った読後感が残ります。しかし時間軸が遡ることで、ホテルという器が作られたときの、何かを始めようとする際の期待や興奮がゆっくりと伝わってくるのです。このため一冊の本全体として、明るい空へと少しずつ昇っていくような方向性を感じさせてくれるのです。読んでいて、これはいいなと素直に思いました。また、一つひとつの短い物語について言えるのは、女性の視点らしい切り口をうまくとらえて描かれているということです。特に「シャッターチャンス」という作品において、この傾向が顕著だと思いました。「挫折」をひけらかして女の心を掴んだように見える男の「挫折」そのものが、実はそれほど深いものではないのではないかと、恋人である女性は訝(いぶか)しく思います。そして何度も試みながら言えなかった「NO」をやっとの思いで口にすることができたものの、ついには男の要求に応えてしまう女性の心情が、直接的ではない周辺的な表現を使って巧みに描かれていくのです。小説を書く上では「嬉しい」や「悲しい」といった直接的な表現を使わずに登場人物の心情を描くことが鉄則なのでしょうが、優れた作者や作品ほどこの描き方が巧みなのだと改めて思わされました。
 芥川賞にしろ直木賞にしろ、受賞の可否には時代を切り取った先進性の有無が問われているように思います。この物語に登場するほとんどすべての人物は、社会の中でそれほど裕福でもなければ、あらゆる意味合いにおいて上位に陣取っているような人々でもありません。皆日常の中でもがき苦しみながら、それでもささやかな幸せや喜びを期待して、懸命に日々を生きている人々の姿が描かれているのです。言い換えれば、「格差社会」の下層を描いているととらえることが出来ます。「格差社会」という、まさに今日的な課題を内包している分、この作品が先進性をもっていると言うことが出来るのかもしれません。しかしもっと大切なことは、作品全体の方向性が上向きだということです。何もかもがうまくいかない日常であっても、その中に小さく光る灯を大切にしようと思わされたり、身近な相手が自分にとってかけがえのない存在なのだと改めて気付かされたり。表現は静かでも、読み手にきちんと上を向いて生きることを勧めてくれる、とても温かなメッセージをこの作品から受け取ることができたように思えました。
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