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○1689『峠』○

 『峠』
著者名:司馬遼太郎 出版社:新潮社 文責:地歴公民 加藤真之

 本は、時の流れを凝縮したものです。
 歴史小説は史実に作者なりの解釈を加えて登場人物に人格を与え、その登場人物の目を介した時代や地域を切り取って読者に提示したものです。戦国時代なら戦国時代、幕末なら幕末といった時の流れの中に登場人物を立たせ、その生き様から読者の心を動かしにかかります。そして読者に訴えかける力に満ちた作品が、後の世に読み継がれていきます。その一方、可能な限り新しい「今」を切り取ることで、その時点における現代を読み解こうとするのが新書と呼ばれる種類の本の役割です。テレビを長とし、新聞を次なる担い手に据える即時的な情報伝達の手段から数歩退き、事柄の時間的な推移を見守ったうえでその変化を整理し、論考を加えたものが新書です。比較的短いスパンの社会の変化を新書が切り取って見せてくれるからこそ、私たちは今を生き抜くヒントを得ることが出来るのです。
 本が時の流れを凝縮する役割を果たすのと同時に、私たち読者の時間もまた、本の中に凝縮されていきます。ある意味においてとても幸せなことだと思いますが、本を読むことに没頭すればするほど、読書中の時間は本からの心地良い束縛を受けることになります。物語に没頭することで、登場人物たちが体験する事柄を私たち読者が疑似体験することとなり、本来一人分の人生しか生きることが出来ない私たち人間の時間的な制約を飛び越え、新たな経験を本が与えてくれることになります。また、ある本を読んだことで得られた感動が、自分のその後の人生に大きく関わり続けることがあります。本は私たちの時間を読後においても支配する力をもち続け、私たちに生きる指針を与えてくれるのです。本に関して、私には幼いころから続けている習慣があります。本の裏表紙に、購入した日か読み終えた日の日付をメモし続けているのです。自分の人生におけるどの時期にどの本が感動を与えてくれたのか、その後の私の生き方にどの本がどう関わって来たのか、このメモのおかげでありありと思い出すことが出来るのです。
 幼かった私に生きる指針を与えてくれたいくつもの本の中で、最も重要な役割を果たしたもののひとつが『峠』です。この本の裏表紙には、私が高校3年生の年の12月末の日付が刻まれています。さらにその下にもう一つ、それから二日後の日付も書き込まれています。なぜ二つの日付が書かれているのか。私にはすぐにピンときました。購入した日と、読み終えた日です。まさにセンター試験直前の、追い込みの時期に限って魅力的な物語を購入してしまい、幼かった私は迂闊にもその面白さに引きずり込まれているのです。このふたつの日付を見て、当時の自分の姿がありありと思い出されました。勉強の合間に机から炬燵に移り、ちょっとした息抜きのつもりで『峠』を読み始めてしまったのです。それがあまりの面白さに没頭してしまい、あと10分あと5分と、時計を見ながらも読み耽り、とうとう二日間で読み切ってしまったのです。それもただ読み切ったのではなく、二晩も徹夜してまでです。何たる愚行でしょう。センター試験が終わるまで、もう少し待てばよかったのに。それこそ息抜きと決めて、短い時間で済ませる心の強さがあればよかったのに。何もよりによって徹夜までしなくてもいいのに。案の定、しばらくの間は徹夜の疲れが残って、ろくに勉強できてなかったじゃないか。素晴らしく面白い本に没頭してしまうことの怖さを思い知らされたあの頃の自分が、今では照れ臭くもあり可愛らしくもあり、何とも不思議な気持ちになりました。
 しかし、『峠』との出会いが私のその後の生き方に大きな影響を与えてくれたことは間違いのない事実です。主人公の越後長岡藩士、河井継之助の生き様があまりにも力強く、惚れ惚れとしてしまうのです。長岡では必ずしも好意的に評価されている人物ではありませんが、その行動力の強さには見習うべきものがあります。作者の司馬遼太郎は、本書のあとがきに次のように書いています。「幕末期に完成した武士という人間像は、日本人がうみだした、多少奇形であるにしてもその結晶のみごとさにおいて人間の芸術品とまでいえるように思える」。司馬遼太郎が河井継之助を「人間の芸術品」としたほどですから、まだ価値観の定まらない幼かった私が、司馬遼太郎が描く河井継之助の姿に感じ入らないはずはありません。それどころか河井継之助が傾倒したとされる陽明学の教えを紐解いては読み耽り、「知行合一」の一言に未来の自分の理想像を思い描きもしました。河井継之助の日記『塵壺』(『塵壺―河井継之助日記』平凡社 東洋文庫 1974年初版発行)が出版されていると知ってはそれを取り寄せ、何度も読み返しました。私が『峠』を通じて河井継之助に出会えたように、こうありたいと思える人間、もしくは人間像に出会える人はどれくらいいるでしょうか。私はまさに人間としての理想像に出会えた分、幸せなのだと思います。もちろん、今の私は到底河井継之助の行動力に追いつくことが出来ていません。しかし、彼が追い求めたとされる人間としての高みにどこまで近づくことが出来るのか、私なりの方法で挑み続けることだけはやめないつもりです。この意味において、私の未来に横たわる時間には間違いなく『峠』が影響を与え続け、挑むべき目標として河井継之助が生き続けることになります。本が過去の時間を凝縮しただけのものではなく、人の未来にも影響し続ける力をもっていることに、感謝しないわけにはいきません。
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