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○1705『ドイツイエロー、もしくはある広場の記憶』「キャトルセプタンブル」○

『ドイツイエロー、もしくはある広場の記憶』
「キャトルセプタンブル」
著者名:大崎善生 出版社:新潮社 文責:地歴公民 加藤真之

 シリーズ化されている物語ならば、主人公をはじめとした登場人物の隠された過去や相互の結びつきを少しずつ明らかにしながら、表面上は巻ごとに異なるそれぞれの物語に彼らを取り組ませるような繋げ方が出来るのかもしれません。そして実際に、そのような連作が数多く世に送り出されています。特に推理小説にシリーズ物が多いのは、有能な探偵やとぼけた語り手など、一旦作り上げられた魅力的な登場人物を、一度きりの登場で終わらせてしまうのはもったいないという姿勢があるからだと思います。そんなシリーズ物ならばいざ知らず、私の場合、物語の続きを読みたいと思うことは実際にはあまりありません。短編にしろ長編にしろ、一旦閉じられた物語はその終わり方そのものが終結を意味していると思うからです。最初からシリーズ化を目論んで書かれたような作品ならば、明かされない秘密を伏線として散りばめ、次の作品を書くことを準備しながら最初の作品を書き上げるような場合があるでしょう。しかしそうでなければ、作品は書き出しから最後の場面まで、作者が思案に思案、推敲に推敲を重ねながら書き上げて行くものだと思うのです。これで終わりですと、作者によって結末が提示されたのなら、それをそのまま受け入れるのが読者の「粋」というものです。
 しかし、作者が密かに続編を書き上げている場合があるとしたらどうでしょうか。その作品が殊更にある作品の続編であるなどと謳うことなく、気付いてくれる人にだけ気付いてもらえればいいというような姿勢で書かれたものだとすれば、それこそ作者からの贈り物として、やはり素直に受け入れるのが読者の「粋」というものです。先日、このブログで取り上げた『九月の四分の一』中の短編、「九月の四分の一」には、そんな続編が存在します。それが今回紹介する『ドイツイエロー、もしくはある広場の記憶』中の短編、「キャトルセプタンブル」です。「キャトルセプタンブル」そのものが一つの独立した短編として成り立っていることはもちろんですが、この中に「九月の四分の一」の主人公の名前だけが出てきます。「キャトルセプタンブル」の主人公は、「九月の四分の一」の主人公がパリで出会った女性とフランス人男性との間に生まれた娘です。娘は両親の離婚に伴う煩わしさを経験し、孤独にも進路の問題にも国籍の選択にも失恋にも見舞われます。自分を見失いそうになったとき彼女の心を温めたのが、「九月の四分の一」で描かれた、母親にとって忘れられない恋の物語だったのです。
 フランス人男性との恋愛や結婚、一人娘の出産、育児、離婚、新しい恋。「九月の四分の一」のヒロインは20年に渡る自分だけの歴史を刻んでいます。しかしそんな日常の根底には、かつて短い時間ながらも共に過ごし、深く愛した男の優しさが常に横たわっているのです。男性の立場であれ女性の立場であれ、「九月の四分の一」と「キャトルセプタンブル」を合わせて読めば、きっとこんな恋をしたいと思う方も大勢いるはずです。たとえ相手がすぐそばにいなくても、「自分の一生を支え続けてくれるような、ふくよかな思いをお互いに注ぎ続けることができ」る恋なら、誰もが経験したいと思えるのではないでしょうか。かく言う私も、そんな読者のうちの一人です。かつての自分の恋を省みて、あの時ああしていたら今頃はどうなっていただろうなどと、ついつい妄想してしまうのは、我ながら困ったことです。
 一作目の人気に甘んじるような、後付けの連作を私は好みません。しかし、過去の作品に登場した人々のその後をそれとなく知らせてくれるような、それそのものが独立した作品ならば、作者からの贈り物として大いに歓迎します。「九月の四分の一」と「キャトルセプタンブル」はまさにそんな関係にあります。読者としては懐かしい登場人物に再び会うことができた喜びもさることながら、同じ作者の作品を読み続けていることに対するご褒美をもらえたような気がして、つい嬉しくなってしまいます。そして物語の登場人物たちが織りなす大切な恋の数々に、自分のこれまでの恋の経験を照らし合わせてつい比較してしまうのです。多くの場合、物語の恋に比べれば、自分の恋には何か足りないものがあったと感じることが多いのではないでしょうか。もしかしたらこの実感は私だけのもので、皆さんはもっとドラマチックな恋に胸を焦がした経験をお持ちかもしれませんね。それでもいいのです。「自分の一生を支え続けてくれるような、ふくよかな思いをお互いに注ぎ続けることができ」る恋は、実は過去のなかにだけあるものとは限らないからです。今、現在進行中の恋を、未来に準備されている恋を、そんな魅力的なものにすることができるように工夫してみてはどうでしょう。「キャトルセプタンブル」。恋をしたくなる、今ある恋を大切にしたくなる、そんな物語です。
 
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