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○1712『雪国』○

 『雪国』
著者名:川端康成 出版社:文藝春秋 文責:地歴公民 加藤真之

 明治期であれば二葉亭四迷・夏目漱石・森鷗外・島崎藤村・田山花袋、大正期であれば武者小路実篤・有島武郎・志賀直哉・芥川龍之介・谷崎潤一郎。私には、いわゆる文豪と呼ばれるような作家たちの代表作をむさぼるように読んでいた時期があります。中学2年生から高校2年生にかけての時期がそれにあたりますが、それぞれの作品を初めて読んだときの感想と、今、改めて読み直した際の感想とが大きく異なる作家と作品の代表的なものが、川端康成の『雪国』です。中高生のころは『雪国』を、読んでおかなければならないものと位置づけ、作品そのものを楽しむような読み方をしていなかったように思います。「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」というあまりにも有名な書き出しもさることながら、内容についてもきちんと読んでおく必要があると決めてかかっていたこと自体、自由な読み方をすることができていたとは言い難い状況にあったと思います。
 『雪国』を改めて読んでみて率直に思ったのは、ずいぶん艶っぽい遣り取りが多かったのだなということです。親が遺した財産を食いつぶすような生活を送っている島村は、雪深い温泉町で駒子という名の芸者と出会います。島村が初めて出会ったころの駒子の印象は、「不思議なくらい清潔」というものでした。「足の裏の窪みまできれいであろうと思われた」というように、体の一部を思い描くように仕組まれた表現によって、なお一層生々しく駒子の清潔さが読者の胸に印象づけられます。初めのうち島村は、「君とさっぱりつきあいたいから、君を口説かない」という態度をとり、駒子を求めようとはしない姿勢を示します。この島村の態度は、駒子との遣り取りを経るたびに変化していくのです。
 島村と駒子の遣り取りを、川端は決して性的に露骨な言葉を使って表現しているわけではありません。男女の関係をその直前のところまで描くことによって、その先の現象を読者に了解させるような書き方をしています。そのような書き方の結果として、『雪国』は長い間にわたって獲得し続けてきた読者たちに、美しい作品として評価され続けているのです。雪国の冷涼で簡潔な風景の美しさの中に男女の関係が描かれることによって、島村と駒子の関係が、さらに研ぎ澄まされた感性を伴って読者の胸に焼きつけられます。「一面の雪の凍りつく音が地の底深く鳴っているような、厳しい夜景であった。月はなかった。」こんな美しい夜に、駒子は島村のもとを訪ねて来ます。島村が「お湯に入ってくるよ。」と言うと、駒子は「いやよ。ここにいなさい。」と返します。しかし、いよいよ冷え切った体を温めるために島村が一人で湯に行こうとすると、「待って下さい。私も行きます。」と、今度は素直に島村の後について駒子も湯に行きます。この先、どんなふうに二人が時間を過ごしたのかを、川端はこと細かく描写するような手段を取りません。恐らくこうなったのだろうと、読者に想像させるのです。その匙加減が絶妙で、男女の関係が決して下世話なものに終始しているわけではないことを教えてくれているように思えます。これが、この作品が美しいと評価されるゆえんであると思うのです。
 しかし、島村と駒子の関係が美しいまま終われるわけがないことは、誰の目にも明らかです。島村に向けられた駒子の情熱は、駒子の体に結ばれた足枷を置き去りにしてまで貫いてはいけないはずのものなのです。上で引用した場面の最後に、駒子はただ一言「悲しいわ。」とつぶやきます。まるで二人が行きつく先には破局しかないのだとの暗示が、駒子の口をついて出るこの一言に込められているように思えてなりません。読者にとって美しさを維持したままこの作品を終わらせるためには、島村と駒子の間を引き裂くような、強烈な出来事が必要だと川端は考えたのでしょう。物語の終わりには、唐突とも思われる深刻な事態が待ち受けているのです。この事態が乗り越えられた先にまで、川端は筆を運んではいません。そうしなければ島村と駒子との間に憎しみや悲しみといった負の感情ばかりが広がってしまい、美しいまま物語を終えることができなくなってしまうのです。まだまだ何もかも中途半端な私でさえ、それなりの経験を踏まえてきたおかげで『雪国』の読み方を一歩深めることができたように思います。皆さんも是非、「これは」と思える物語を再読してみてください。以前その作品を読んだタイミングから時間が経っていればいるほど、新しい読み方が出来るはずです。
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