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○1737『ノルウェイの森』○

『ノルウェイの森』
著者名:村上春樹 出版社:講談社 文責:地歴公民 加藤真之

 1月1日、2015年が始まりました。前年の反省を踏まえ、新たな目標を設定するのに最も適した日です。私が今年の自分のために準備した目標は「挑戦」です。仕事の面においては、新たに手掛けたいと考えているプロジェクトがあります。個人的にも、これまで毎日少しずつ手を加えてきた作業の量をもっと増やすことで、今年中に一応の完成を見たいと考えているものがあります。これらの「挑戦」が具現化するまでには数年を費やすことが予想されますが、そのスタートラインとして今日を挙げるのは、やはり物事にはタイミングというものがあると思うからです。本の紹介について新たな挑戦を試みるとすれば、村上春樹の作品に言及することです。「なあんだ、そんなことか」と思われる方がいらっしゃるかもしれません。しかし、これがなかなかどうして、相当の勇気がいるものだと私は勝手に思っているのです。
 これまで私は、意識的に村上春樹の作品を紹介することを避けてきました。その理由は、村上春樹の作品には他の作家よりも多くの熱狂的な支持者が存在する上、執筆活動を継続している作家でありながら、その作品に対する評論や研究書があまりにも多く存在するからです。私が村上春樹の作品について何か言及しようものなら、それに対する賛否の意見が渦巻いてしまうのが恐かったのです。すでに研究し尽くされていることと異なることを当たり前のように論じてしまい、恥をかくのが嫌だったのです。しかし、そんな臆病とも別れを告げるときが来ました。私は村上春樹の作品が好きなのです。そして、これまでにたくさんの著書を読んできました。もちろん、それらの作品に対する自分なりの経験や、意見や感想をもっています。それを私見の範囲内で論ずることに、何を恐れることがあったのだろうかと、今さらながらのように思いかえしています。繰り返しますが、何せ私は村上春樹の作品が好きなのです。それ以外に、彼の作品について言及する理由はありません。2015年1月1日という、新しいことに「挑戦」する節目としてはこれ以上にない機会を境に、臆することなく村上春樹の作品に対する言及を始めることにします。
 『ノルウェイの森』。400万部を超えるという売り上げ部数は、空前の記録でした。活字離れ、本離れが進んでいると言われている昨今、その100分の1の売り上げでさえヒット作と呼ばれるのですから、その売り上げ部数がいかに驚異的な数字であるかが分かっていただけると思います。なぜこれだけの数字を残すほどこの作品が人々に読まれているのか、その理由のひとつに「新しさ」があったように思います。作者自身がこの作品を指して「100%の恋愛小説」と表現していますが、恋心や恋人そのものを失った主人公がその「喪失感」に起因する痛みに繰り返し耐えながら、何とかして失ったピースを取り戻そうとする物語の系譜は、その後も『国境の南、太陽の西』『スプートニクの恋人』と、作品を変えながら継承されていきます。「喪失感」というキーワードは、村上春樹の作品を語る際によく用いられるものです。この「喪失感」そのものが、それまでの小説にはない「新しさ」として、読者の心に分け入ったのだと私は思うのです。有体な言い方になってしまいますが、『ノルウェイの森』には実に多くの死が描かれています。主人公であるワタナベからの距離には遠近の違いこそあれ、他の作家の作品に比べて多くの死が描かれているのは事実です。読者は少しずつ登場人物たちにとって大切な人の死の記述を心の中に積み重ね、知らず知らずのうちに「喪失感」に覆われて行くのです。「喪失感」が読者の心を支配したとき、あの、村上作品ならではの独特の読後感が生み出されるのです。
 2015年1月1日。『ノルウェイの森』が占める文学史上の地位を埋める作品は、出版から30年近く経過してもなお出現していないように思います。『ノルウェイの森』が出版された1987年当時、若者の心に訴える力をもった「喪失感」が『ノルウェイの森』の地位を押し上げたように、文学の力をもってして、「喪失感」に取って代わるほどの力を発揮する作品が、十分な影響力をともなって日本社会に登場し切れていないのです。つまり、文学がその時代に合わせてもつべき新たなモデルが、『ノルウェイの森』の「喪失感」以降、生み出されていないということです。現代社会にあって、文学や小説が戦うべき相手を「孤独」であるとする考え方が文学者や評論家によって繰り返し提示されています。このニーズに応えようと奮闘した上で、作品を世に送り出してくれている作家もまたたくさんいます。しかし残念ながら、「孤独」そのものが現代社会の病巣であると読者に気付かせ、そこから這い出そうと奮起する若者を育て切れていないところに、『ノルウェイの森』以降の文学の弱さがあるように思えてならないのです。日本が誇る小説家の皆さん、「挑戦」の結果『ノルウェイの森』を超える作品が生み出されることを、私は切に願っています。
 
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