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○1739『国境の南、太陽の西』○

『国境の南、太陽の西』
著者名:村上春樹 出版社:講談社 文責:地歴公民 加藤真之

 人生には選択する余地がないものがあります。例えば、親です。子どもは親を選んで生まれて来ることはできません。そこには運命としか言いようのない、必然なのか偶然なのかよく分からない力が働いて、結果だけがもたらされます。その他に何か選択する余地がないものの例を挙げることが出来るかもしれませんが、この世界に産み落とされて以降、時間が経つにしたがって、選択する余地のある物事の方が数を増していきます。生まれたばかりの赤ん坊は自分の意志で食事の時間や量を決めているのではなく、生理的な欲求によって発現する曖昧な方法によってなされた主張を、誰かに理解してもらうまで待たなければなりません。しかし、人は成長するに従って空腹という感覚を手に入れ、明確な言葉によって食糧を必要とする時間とその量とを主張し、何をいつどう食べたいのかまで選択することが出来るようになります。生きることに関する選択はよりよく生きるための選択へと拡大し、やがて選択する余地のある物事の方が、圧倒的多数を占めるに至るのです。
 『国境の南、太陽の西』は、「選択の物語」です。もちろん、すべての物語には登場人物の葛藤があり、困難があり、変化があります。そしてそのすべての局面において、何らかの選択が施されるのです。そういった意味では、世の中に存在する物語は、すべからく「選択の物語」ということになります。しかし、ここで『国境の南、太陽の西』をあえて「選択の物語」を名づけるのには理由があります。主人公であるハジメの心の奥底にはいつも幼い日の恋人である島本さんの存在があります。自分にとっての唯一の女性として、常に島本さんを選択しているはずなのに、ある種の諦めから他の女性を選択し続ける、「選択の矛盾」とでも言い得る状況の中に生きている姿を描いているからです。
 ハジメと島本さんは、12歳のときに親密さを深め、互いに異性として相手を強く意識するようになります。しかしハジメの引っ越しによって二人の間の物理的な距離が開くのと同時に、それぞれの生活の中で互いに異なる異性との接触が濃くなっていきます。その過程は主人公であるハジメの場合しか描かれませんが、ハジメは島本さんを、島本さんはハジメを選ばない限り、男女の関係を築く上で互いに誤った選択を続けるしかないのです。その結果、ハジメは高校2年生のときに、同級生だったイズミを大きく傷つけてしまいます。さらに30歳のときに結婚した、5歳年下の由紀子との間に二人の娘をもうけたハジメでしたが、24年ぶりに再会した島本さんに激しく心を奪われてしまいます。ここでハジメは何を選択するのでしょうか。島本さんのもとに走るのか、それとも踏みとどまって由紀子のもとに戻り、家庭を堅持するのか。この物語で最大の選択の場を迎えることになるのです。その結果をこの場で言及することはできません。どうか皆さん自身が物語に触れて、確かめてみてもらいたいと思うのです。
 人生には選択がつきものです。その選択の結果何を手に入れ何を失うのか、選択にはメリットとデメリットが常に併存し、そのふたつを天秤にかけて重い方を選択するのが一般的です。由紀子との結婚によって成功を収めたハジメは、経済的に豊かな生活を手に入れることが出来ています。島本さんのもとに走れば長年培ってきた愛を手に入れることが出来るかもしれませんが、その豊かさはすべて失われ、築いてきた家族は崩壊してしまいます。一方、踏みとどまって家庭を堅持することを選択すれば、豊かさと家族を維持することが出来るものの、追い求めてきた愛は失われてしまいます。要するに、愛を貫くという人としての理想と、現に手に入れることが出来ている家庭を守るべきだとする現実と、どちらかの選択を迫られているということなのです。この結論を主人公に、もしくは読者に迫るまでの物語の進展は実に緻密で、他の村上作品に見られるような虚構の物語世界を含まない分だけ現実的です。さあ、あなたなら理想と現実のどちらを選びますか? 
 
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