『超絶技巧美術館』
著者名:山下裕二 出版社:美術出版社 文責 美術 木村顕彦
「本書は、『美術手帖』2012年10月号の特集『超絶技巧!』をもとに再編集し、書籍化したもの」(本書巻頭の説明より)である。
本書には長い副題がついている。「超細密絵画、スーパーリアル・フィギュア、複雑怪奇な工芸品!?現代作家20人の挑戦に迫る!」というものだ。
美術の世界は、広い。千葉県に「ホキ美術館」という写実絵画に特化したコレクション美術館が開館したあたりから、技術、技巧というものが改めて見直されてきているように思える(何が描いてあるかわかんなーい、という絵や美術作品に対する反発というような単純なことではなく)。そんな流れの中での本書、または雑誌『美術手帖』誌上での特集だったのだろう。
上記の、長い副題からもわかる通り、本書に掲載されている作品は絵画のみならず、立体作品も含まれる。
技巧の世界に取り憑かれたともいえる「現代作家20人」。
全員の作品が、とにかくスゴイのだが、私が特にこの場で紹介したいのは一人!
それが、山口英紀(1976-)。
紙本着色や、水墨の技法によって、写真のように細密な描画をする画家である。
・・・前述のホキ美術館収蔵作品を手掛ける画家群にも、写真のように細密な描写をする描き手はいる。しかしそれらはいずれもが鉛筆や油彩(油絵)の技法によって描いている。
それが、山口は、なんと、水墨。これは驚くべきことだ。印刷による本書で初めて山口の存在を知り、まだ実物を鑑賞していないのでこれ以上のことは書けないが、とにかく驚いた。
さて、本書の監修を務める山下裕二(1958-)についても少し触れたい。
山下は明治学院大学教授であり、日本美術について造詣が深い人物である。彼はまた、芸術家・岡本太郎(1911-1996)の再評価に尽力した。
さて、岡本太郎と言えば、技巧を否定し、アバンギャルドを突っ走った芸術家だ。
岡本太郎と、超技巧。相反する二つを、両方とも高く評価する山下の価値判断は矛盾しているのではないか?美術に少しでも興味がある人ならば、恐らくそう考えるだろう。実際、私はそう考えた。
と、その点について、本書の中で山下は真っ直ぐに持論を展開させているのだ!「技巧の衰退と復活-岡本太郎の功罪」と題されたその文章を読み、上記の私の疑問を解きほぐされた。その箇所だけでもぜひご一読を。そしてまた、私が山口英紀の世界に魅了されたように、読者それぞれのお気に入りの作家にも出会えるかもしれない。