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○1827『共喰い』○

 『共喰い』
著者名:田中慎弥 出版社:集英社 文責 地歴公民 加藤真之

 第146回芥川賞(平成23年度上半期)受賞作です。
 数年前にある文章を書いた際、それを読んで下さった女性から「いかにも男性が書いたものだ」との指摘を受けたことがあります。私はこの言葉を、「男性的な視点から書かれた作品」であると指摘されたものと受け止めましたが、この解釈に大きな間違いはないと思っています。私は読む本を選ぶ際、特に作者の性別を考慮に入れることはありませんでした。男性作家が書いたものも女性作家が書いたものも、特に区別することなく購入し、あるいは図書館などから借りて読んできました。しかしこの指摘を受けてからというもの、何とはなしに作者の性別を念頭に置きながら物語を読み進めるようになりました。そのことによって、作家の性別によって生じる、すべての物語に共通する差異が明らかになるようなことはありません。作家の性別によって生じる差異を考えるよりも、作家個人の文体の特徴や物語を構築する際の癖のようなものを発見することの方がよほど面白く生産的であることを、あらためて指摘させてもらいます。
 しかしある種の傾向については、作者の性別によって発現の度合いが偏るように思えます。性的な描写に触れる際、そのことを最も強く感じるのは私だけではないのではないでしょうか。殊に性を仲介とした暴力の描写が、あるいは暴力を受けた記憶の描写が、暴力を受ける側の視点や行動をないがしろにしているような印象を読者に与えることがあります。その頻度は女性作家の作品よりも、男性作家の手による物語の方が高い傾向にあると思われるのです。例えば村上春樹を例にとってみましょう。彼の作品に共通する「喪失感」の根拠が、物語に登場する女性の性の経験のなかに見られる「辛さ」にあるように思えるのです。『ノルウェイの森』のレイコさんは、得意な性的経験から精神の崩壊をきたします。『アフターダーク』では、中国人の娼婦にひどい暴力をはたらいた男が登場します。新しいところでは『女のいない男たち』に収められた「木野」という短編に、男の手によって体中に火傷を負わされた女性の姿が描かれます。いずれの作品においても、性にまつわる辛い経験を持つ女性を描くことで、作品全体の陰影を深めることに成功しているように思えます。その反面、作品に描かれた女性の立場に立って考える読者は、その描写のむごたらしさを想像して不快な思いを抱くのも無理からぬことだと言えるでしょう。
 『共喰い』は男性作家によって描かれた、性にまつわる暴力を受容する女性の姿をいくつもの場面で取り上げた作品です。そんな暴力に虐げられていても、それぞれの行動において自己の尊厳を守り、したたかに生きていこうとする女性の姿は確かに描かれています。しかしそれ以上に、男性の身勝手な暴力に繰り返し耐えている様子が作品の随所に描かれ、読者の心を暗い淵へと追いやる役割を果たしていることは間違いありません。作品の読み方によっては、暴力の世代間転移に怯える少年の姿を描いた作品としてとらえられるため、そのための道具のように描かれた女性たちの姿はあまりにも無造作に思われます。主人公である少年の父親には、暴力に晒される女性の感情や体へのいたわりが異常なほど欠如し、周囲の視線や道徳観念を全く無視した状態にあります。その行為は、鬼畜にも劣るようなレベルにあります。少年は父親のあまりにも奔放な性格あるいは行動によって、振り回され続けているだけではありません。特に性的な欲望を制御しようともせず、行為中の暴力さえ肯定したその姿に、嫌悪を越えた憎しみを抱いています。さらにその憎しみは、自分のなかに否応なく流れている父親と同じ血に向けられ、同じ血を宿しているがゆえに、性的な行為中に行われる忌まわしき暴力が、やがては自らの身にも起こるのではないかとの強い危惧に変貌していくのです。
 私がこの作品に違和感を覚えるのは、現実感がまるで欠如しているからです。限定された地域社会のなかで、これほど傍若無人な振る舞いが放置されるものでしょうか。答えはおそらく「否」です。少年の父親は性行為中の暴力を自ら肯定し、恥じ入るどころか開き直っています。そのことを地域社会の人々は黙認しているように思えます。しかし、少年の父親の暴力の犠牲者は誰かの娘であり妻であり家族であるはずです。そんな大切な存在が傷つけられていながら誰も裁断を下そうとせず、されるがままになっているかのような物語の展開は、背景にあるはずの社会性を無視した上に成り立った、強烈なフィクションに陥っているように思えてなりません。物語の都合により、社会性を無視した設定に終始する作品であると思えるのです。これでは作品に描かれた女性の立場に立って考える読者が、その描写のむごたらしさを想像して不快な思いを抱くのも避けられなくて当然です。人は誰しも特定の性別を有しています。人によっては生まれた時点での性とは異なる、新たな性を手に入れた場合もあるでしょう。しかしいずれにしても、所属している性は二つに別れます。男性の作家ならば「男性的な視点から書かれた作品」を世に送り出すのは当然のことですが、そのなかに少しでも女性の立場に対する理解を含むことが出来たなら、より良い作品を生み出すことが出来ると思うのです。
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