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○1837『雪のひとひら』○

 『雪のひとひら』
著者名:ポール・ギャリコ 翻訳者:矢川澄子
出版社:新潮社 文責 地歴公民 加藤真之

 2015年3月14日、身近な人から贈り物をいただきました。「読書ノート」です。このブログに本の紹介をアップするようになって丸一年が過ぎましたが、そのための原稿の要点整理と下書きにうってつけのノートでもあり、大変重宝しています。このノートにはブラックとベージュとブルーがありますが、私に似合うと思ってくれたブルーが在庫切れだったらしく、わざわざ注文してくれたとのことでした。その気遣いに感謝しています。さて、ノートの商品名は『READING EDiT』(EDiTのiは、あえて小文字にしているようです)といい、MARK’S Inc.という会社から発行されています。このノートには「TITLEタイトル」や「AUTHOR著者」の欄が設けられているのはもちろんのこと、その他にも様々な情報を書き留めておくのに適した紙面で構成されています。なかでも面白いと思ったのは、「BOOK DESIGNER 装丁家」の欄が置かれていることです。書店で、あるいは図書館で、たくさんの本の中から予備知識なしに未知の本を手にするうえで、視覚から飛び込んでくる情報はとても重要です。インターネットを介してソフトを購入する際のいきさつについてはいざ知らず、かつてのレコード、あるいは現在のCDを購入する際の「ジャケ買い」を期待するのであれば、やはり装丁に力を入れないわけにはいかないでしょう。そしてそんな経済的な側面よりも、本作りに携わる作家や編集者や出版社がより良いものを読者に提供しようとすることで、装丁にもまた工夫が凝らされることは想像に難くありません。この『READING EDiT』を手に入れたことで、本の装丁もまた読む本を選ぶ際の大切な基準の一つとして、わたしにとってにわかに興味の対象となりました。
 私の手元にある『雪のひとひら』は、文庫本です。この作品のハードカバーを目にしたことはありませんし、存在するかどうかも分かりませんが、もし存在するのなら文庫本と同じ装丁であってくれればいいのにと願っています。なぜなら、文庫本の装丁があまりに美しいからです。この美しさのままで少し大きめの版があるのなら、その本はどんなに素晴らしい仕上がりになっているか分かりません。表紙の背景はあざやかで深みのあるコバルトブルーです。右上に白抜きで『雪のひとひら』と題名が打たれ、その下に題名よりも小さく作者名と訳者名が配されています。中央よりも少し下に銀色で、原題である『SNOWFLAKE』と作者名のアルファベット表記で「Paul Gallico」の文字が刻まれています。この文字は邦題よりもひときわ大きいものの、銀色の効果が手伝ってコバルトブルーの背景に上手に溶け込んで見えます。そのことにより、邦題の存在感を決して損なうことがありません。そして何といってもひときわ美しいのは、邦題と原題の間、表紙の中央よりも左上に配された雪の結晶の写真です。繊細でいて正確なその形が、見る者の目に冷たく焼き付けられるのです。雪の結晶の周囲は、背景のコバルトブルーがあざやかです。しかしさらにその周縁には、夜空の星々を想わせる白く細かな点が、空間全体を覆っているのです。まるで晴れた夜空から無数の雪のひとひらが舞い降りてくるなか、たった一つの『雪のひとひら』が、特別な存在感をもって目の前に迫ってくる光景を切り取ったかのようです。
 物語は「雪のひとひら」を主人公に据えながら、その扱いが擬人的であるために人間の女性の姿に置き換えて読むことができるようになっています。一人の女性がこの世に生を受け、成長し、そして死んでいくまでを描いた物語は、「雪のひとひら」が主人公のファンタジーのスタイルを取り入れている分、かえってシンプルな構造をもっています。そのため読み手の心にすんなりと入り込んでくるのです。「雪のひとひら」は地上に降り立つ過程をはじめとして、自らの生涯の要所で「誰か」にあたたかく見守られ、つつみこまれているような安心感を味わう経験をします。「雪のひとひら」が自らの生の終わりに気がついたことは、かつてあれほど大きいと思っていた川や海が、太陽や月に比べればはるかに小さく、取るに足りないものであるという事実でした。そして自分自身は川や海よりもさらに小さく、それこそささやかな存在でしかないことを知るのです。しかし、そこに悲壮感はありません。なぜなら壮大なものにもささやかな存在にも、「誰か」のまなざしやぬくもりが等しく注がれていることを知ったからです。「誰か」の姿に、あなたは思い至るでしょうか。その姿について作者は特に触れようとはしませんが、誰もがその存在を想起し、名前を付けることができるはずです。
 読書に費やす時間の中で、あなたが最も幸福を味わうことができるのはどのタイミングでしょうか。私は読了直後、本を閉じてもう一度表紙やカバーに向き合う瞬間に、最も深い感慨に耽ることが多いことを自覚しています。全ての内容を読み終えた後に表紙やカバーに向き合うと、その絵なり写真なり、表紙やカバーのデザインが物語の中のどの場面を切り取ったものであり、何を意味していたのかが分かります。この経験を通してようやく、物語の内容や、表紙やカバーのデザインだけでなく、本そのものを理解して自分の中に取り込むことができるのです。この瞬間に得ることができる深い感慨とは、まさに本との一体感によってもたらされる心の動きなのだと理解することができます。『雪のひとひら』についても同じことを試みました。するとカバーのデザインが、単に視覚的に美しいだけのものではなかったのだという事実に気づかされたのです。コバルトブルーの背景には全体的に星をイメージすることができる白い点が配されています。しかし、特に雪の結晶の写真をとりまくコバルトブルーには、この白い点が刻まれていません。これはただ単に雪の結晶の写真を際立たせる効果を上げるためだけにそうされているのだと思っていました。しかし、読後にはそこに別のものを見ることができたのです。それは、「誰か」の存在です。雪の結晶が「誰か」のまなざしやぬくもりに守られている。だからこそそこには星々のまたたきを見ることができない。そんなふうに理解することができるようになったのです。物語そのものだけでなく装丁との関係に、本を読むことのさらなる味わいを教えてくれた本として、『雪のひとひら』は私にとって大切な一冊になってくれました。
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