『鉛筆デッサン小池さん』
著者名:長谷川集平 出版社:筑摩書房 文責 美術 木村顕彦
本書は、ちくまプリマーブックスの一冊である。
著者は、多くの絵本作品で知られる長谷川集平(1955-)。本書は絵本ではなく、200ページ近い小説(少年向きの読みもの)だ。
カラーの表紙絵と、モノクロの挿絵が物語を彩る。その絵は長谷川によるものではなく、なんと、漫画家の永島慎二(1937-2005)。
本書あとがきにも、「挿絵を永島慎二さんが引き受けてくださった。本当にうれしい。」と、長谷川が書いているように、読者である私にとっても嬉しいことだ(永島の年譜によると、本書刊行の1991年、彼は将棋の駒作りに熱中していた時期のようで、絵や漫画作品はほとんど発表していないと考えられる)。
さて、本書の内容の紹介に移ろう。
タイトルに「小池さん」という個人名。当然、物語にも登場する人物名なのだが、「小池さん」というとどうしても、藤子不二雄の漫画『オバケのQ太郎』に登場する小池さん(いつもラーメンを食べている、パーマ頭とメガネのキャラクター)を連想してしまう。だが、両者、全く関係ないことをまず先にお断りしておく。
本書の「小池さん」は美術予備校の講師。主人公の「ぼく」は、小池さんを尊敬している美大浪人生だ。
ぼくと小池さん以外にも、多くの生徒たち(仲間たち)が登場する。デッサンに励む若者たち、大学受験だけではなく様々な出来事に直面する彼らの群像劇である。
「石膏像が歴史的な彫刻のコピーで、その元にかならず神々や人間のドラマがある、それを知って描くのと知らないで描くのじゃ大違いって、はっきり指摘してくれたのは小池さんだけだった。」
「小池さん曰く『デッサンは枚数描けば上達するというのはウソ。宇野先生の言う、積み上げて自分の身長に届くまで描けば一人前というのはウソ。背の高いやつはどうするんだ。』(以下略)」
「(略)でも本当はこうやって線の積み重ねで立体感をつけるやり方というのはテンペラやフレスコの『ハッチング』という手法と同じなんだ。だから、この訓練をしておくと、テンペラにスムーズに移行できる。(以下略)」
・・・などなど、「ぼく」の体験を通じて、読者自身もデッサンを習っているような気持ちにさせてくれる一冊だ。