『トランクの中の日本 米従軍カメラマンの非公式記録』
著者名:ジョー・オダネル(写真)
ジェニファー・オルドリッチ(聞き書き)
出版社:小学館 文責 美術 木村顕彦
ジョー・オダネル(1922-2007)。
代表作は『焼き場にて、長崎』。
その写真家の名前と仕事を知ったのは、つい最近のこと。青木新門著『いのちの旅』(時鐘舎・刊)によってであった。
本書はそのジョー・オダネルの写真集である。
彼はアメリカの従軍カメラマンとして、戦後の長崎や広島を写真撮影をした。タイトルにある「非公式記録」というのは、本書に収録されている写真群が「私用カメラで撮影した」ものだからだ。彼はそのネガを「トランクに納め、二度と再び開けまいと、蓋を閉じ鍵をかけた」が、戦後何十年も経った頃に「もう逃げるのはよそう」と、それらの公開を決意する(「」部分は本書巻末「平和への願い」と題されたジョー・オダネルの言葉からの引用)。その写真群が、本書の収録作品である(こういった類の写真を「作品」と呼んでいいかはわからないが)。
収録写真には、それぞれ文章が添えられている。
中でも私が特に印象深く読んだのは、ジョーが長崎で出会った三人の兄弟らしい子供たちを写真に撮り、お礼にリンゴを渡した時のエピソードである。以下引用。
「一番年長の子が、そのリンゴを私の手からひったくるように取り、(略)がぶりとくらいついた。(略)まばたきする間もなく蠅の大群が飛んできてぶんぶん羽音を立て、噛みあとを真っ黒に埋めた。私はそんなにたくさんの蠅が一箇所に集まったのを見たのは初めてだった。ところが、兄が弟にそのリンゴを渡すやいなや、その子は蠅を追い払いもせずに、かぶりついてしまったのだ。そして次に一番下の子に渡った。私はもう正視できずに横を向いた。(略)飢えとは何か、知っているつもりだった。しかし本当に飢えるとはどういうことなのか、私は何も知らなかったことに気づいた。」
戦争、原爆。そして、ジョー・オダネルという一人の写真家が遺した記録を忘れてはならない。
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