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○2222『螢・納屋を焼く・その他の短編』○

『螢・納屋を焼く・その他の短編』
著者名:村上春樹 出版社:新潮社 文責:地歴公民 加藤真

 この本は村上春樹の短編集のなかで、私が最も気に入っているものです。しかし、このブログで紹介するかどうかはだいぶ迷いました。その理由は、以前『ノルウェイの森』を紹介したときと同じです。『ノルウェイの森』の紹介で書いた理由をそのまま引用します。「これまで私は、意識的に村上春樹の作品を紹介することを避けてきました。その理由は、村上春樹の作品には他の作家よりも多くの熱狂的な支持者が存在する上、執筆活動を継続している作家でありながら、その作品に対する評論や研究書があまりにも多く存在するからです」。そうです。要するに、熱狂的な支持者や評論家・研究者によって、「いやいや、そう読むのは適切ではないのだよ。何も分かっちゃいないなあ」と思われるのが怖いのです。
 私の手元にある個体は文庫本ですが、いつ購入したのかまったく覚えていません。しかし、もう何冊目かの個体であることは確かです。旅先にもっていって紛失したり、通学途中で水たまりに落として台無しにしてしまったり、友達に貸したまま返してもらっていなかったり。様々な理由で手放しては入手してを繰り返してきた経緯ははっきりと覚えています。現在私の手元にあるのは平成22年4月30日に発行され、52刷を数えるものです。52刷! この本がいかに多くの人々に読まれ、繰り返し発行されてきたのかはこの数字をみれば明らかです。その分だけ読者の数は多いわけで、この本に愛着を持っている方もまたたくさんいるわけです。そんな本について書こうとすれば、やはり臆するのが人間というものです。それではなぜ今回このブログで『螢・納屋を焼く・その他の短編』を紹介しようと思い立ったのか。これまで躊躇してきたと書いた割にはその答えは明白で、改めて読み返してみて、その素晴らしさを再発見したからです。私個人の勝手な気後れなど吹っ飛ばすほど、この本に納められた作品はどれも魅力的だったのです。すでに多くの読者を獲得している作品であることは先にも書いた通りですが、さらに多くの方々にこの本を読んでもらいたいと思い立ち、微力であることは分かっていながら筆を執った、いや、キーボードを叩いている次第です。
 村上春樹の作品を表するのに、よく使われるフレーズがあるように思います。「乾いた」あるいは「湿った」、「喪失感」、「失語的」、「あちら側こちら側」。そのフレーズは評者ごとに競って新しいものが生み出されている感さえあり、枚挙にいとまがありません。私としてはここで新たに村上春樹の作品を表すフレーズを考案しようなどとおこがましいことは考えていません。ただ実感として、「乾いた」あるいは「湿った」という言葉によって表現されるような「湿度」が、作品ごとにうまくコントロースされているという実感があります。「乾いた」ものであれ「湿った」ものであれ、作品によって湿度がうまくコントロールされている点が、村上春樹という作家の優れた力量のひとつであると思うのです。
 「螢」は、その「湿度」の点で最もすぐれた短編の一つだと私は思っています。この短編が後に書かれる『ノルウェイの森』の原型となっているという指摘はよく目にするところです。一旦完成させた短編作品を長編として蘇らせたとする見方が許されるのなら、作者自身が「螢」という作品を気に入っていたことは想像に難くありません。「螢」の最後はこう締めくくられています。「螢が消えてしまったあとでも、その光の軌跡は僕の中に長く留まっていた。目を閉じた厚い闇の中を、そのささやかな光は、まるで行き場を失った魂のように、いつまでもさまよいつづけていた。(改行)僕は何度もそんな闇の中にそっと手を伸ばしてみた。指は何にも触れなかった。その小さな光は、いつも僕の指のほんの少し先にあった」。どうですか? この「湿度」。「乾いた」文体の中に、手を伸ばしても届かないものに対する魂の彷徨という、「湿った」(これを「乾いた」感情とする見方もあるとは思いますが)感情が描かれています。こんな絶妙な「湿度」を保たれてしまうと、読者としては物語の余韻を引きずってしまうわけです。「螢」という作品がもつこの「湿度」は、やはり『ノルウェイの森』にも引き継がれているように、私には思えます。この余韻こそ、「螢」をはじめとした『螢・納屋を焼く・その他の短編』に収められた作品群が多くの読者を虜にして離さない要因になっていると思うのです。どうでしょう、村上春樹の熱狂的な支持者や評論家・研究者の皆さん。こんなダメな私の見解を、受け入れてくれますか?


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