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○2223『冷静と情熱のあいだBlu』○

『冷静と情熱のあいだBlu』
著者名:辻仁成 出版社:角川書店 文責:地歴公民 加藤真之

 約束。
 約束は未来です。約束を交わしたことにより、その時点から約束を果たすべき未来を目指して生活の一部が支配されていくことになります。約束が自分にとっても相手にとっても大切なものであればあるほど、その支配力は強さを増していきます。約束の内容によって未来を楽しみに思うこともあるでしょうし、気が重くなることもあるでしょう。それにともなって約束された未来を待つ時間が短く、あるいは長く感じられることがあるかもしれません。いずれにしても約束は、それにかかわる人間たちの時間と精神を支配し、束縛するものです。『冷静と情熱のあいだBlu』には、結ばれた約束を果たすまでの間に主人公である男性が自らの人間関係を変遷させ、精神が静かに、しかし確実に磨き込まれていく過程が描かれています。
主人公はかつての恋人との間に、彼女の「三十歳の誕生日にフィレンツェのドゥオモの頂上で待ち合わせよう」という約束を結んでいます。ところが二人の間には、やがて別れが訪れるのです。主人公は家庭環境が複雑で、家庭内での自らの立ち位置に自信が持てないでいます。その影響もあってか、物語の冒頭ではレスタウロ(修復)の勉強をするために日本を離れ、イタリアのフィレンツェに住んでいます。彼はイタリアに住んでいても、後に日本に戻ることになっても、別れた女性のことを忘れられずにいます。若くエネルギッシュな、魅力にあふれた恋人がいるにもかかわらず、かつての恋人の影を常に追い求めてしまうのです。人は、会いたいと思う相手に会えない時間が長ければ長いほど、会いたさがさらに降り積もる生き物なのかもしれません。誰にでもこんな思いに胸を痛めた記憶があるのではないでしょうか。もしかしたらこれを読んで下さっているあなたは、今まさにそんな苦しさを味わっている最中かもしれませんね。
 かつての恋人との辛い別れを選択した後、主人公は自分なりの人生を構築していきます。画家になることを諦め、レスタウロの仕事を選び、その技術を習得することに努力を続けています。その過程には主人公なりの葛藤があり、自らを問い直す機会にもなります。職場の人間関係に悩み、裏切られ、心を痛めながらも、そこから何かを得ようと自分をコントロールすることを学びます。尊敬する祖父が倒れたことを受け、父との確執や義母への憎悪に小さな理解を得ることができ、そのことによって自分が歩んできた人生を客観的に整理することができるようになっていきます。これらの事象はすべて、人としての成長と呼びうるものなのではないでしょうか。そうです。読者である私たちはこの物語を読み進めることによって、主人公が確実に成長していく姿を見せられていくのです。しかし、そこにはいつも何かが不足しています。何もかもが成長に向かっているはずなのに、その一番深い根っこの部分に空虚を抱えている主人公の姿は、どの場面においても危うく見えてしまうのです。この危うさに、主人公こそ気がついているのではないでしょうか。様々な人間関係やそれに伴う感情の変化に少しずつ対応することで、主人公は確実に成長していると言えるのです。その成長は自分を客観視する力をも生み出します。そのことによって自分の中に決定的な空虚が存在している事実に主人公自身が気付き、自らの存在に危うさを感じ始めるのです。
 主人公の内面に巣食う空虚の正体は、かつての恋人「あおい」の喪失です。若く、何事にも稚拙な人間性のもとに描く未来は、あまりにも理想的で実態をともなわないものかもしれません。しかし、人は誰しも時を経て変化していくものです。幼い時代は誰にでもあり、幼いからこそ純粋な目で物事をとらえることができるものなのかもしれません。主人公は幼い人間性を抱えながらも、あおいとともに築く未来に真剣なまなざしを向けていました。それだけに、あおいととともに築くことができなかった現実など、いつ壊れても、あるいは壊してしまってもかまわないものだったのかもしれません。物語が進むにつれ、主人公は自らの手で現実を壊していきます。あるいは整理していくと言った方がいいのかもしれません。もつれた糸のように絡まった自らの人生を整理した先に残ったもの、それはあおいでした。主人公はその身ひとつで、あおいとの約束を果たすためにドゥオモの頂上に向かいます。そこにあおいが現れる保証はありません。しかし、主人公はひたすら待ちます。主人公が待っているものは何か、それはあおいでありながらあおいだけではないものです。自らを支配し、束縛していた現実なのです。約束に名を借りた支配と束縛に抗うことを主人公が決意したとき、物語はいよいよその日を迎えます。「待っている時間の長さは、つまり悟るための長さだ。待っている先に待ち受けている現実があることを悟るため、人は待つという時間に身を浸す。そしてぼくの場合、それはこの八年という長さだった」という記述が、支配と束縛とに対峙することを決めた主人公の意志を表しているのです。果たして約束の場所にあおいは現れるのでしょうか。私は主人公が待っているものがあおいだけではなく、支配と束縛への決別なのだと書きました。しかし一読者として、主人公があおいに会えることを期待せずにはいられません。たとえ二人がともに生きることを許されないとしても、あおいに会うことができれば主人公は今度こそ新たな人生を歩んでいくことができると思うからです。あーあ、こんな情熱的な約束、私も誰かと結んでおけばよかったなー。


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