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○2224『冷静と情熱のあいだRosso』○

『冷静と情熱のあいだRosso』
著者名:江國香織 出版社:角川書店 文責:地歴公民 加藤真之

 『冷静と情熱のあいだRosso』は、先日この場で紹介した『冷静と情熱のあいだBlu』と対を成す物語です。『Blu』はある恋をめぐる男性の視点から彼の人生を描いたものであり、『Rosso』は同じ恋をめぐる女性の視点から彼女の人生を描いた物語です。本書のあとがきには次のようにあります。「これはあおいの物語です。あおいとあおいの人生の。そして、恋に関する限り、すべての半分の物語です。あとの半分、あおいの知らない順正(『Blu』の主人公です:筆者註)と、あおいの知らないあおい自身とが、別な物語にとじこめられています」。確かに、一人称によって書かれたほぼすべての物語は、当然のことながら常に語り手の視点からのみ描かれます。この意味において半分の、場合によっては半分に満たない分量しか一つの出来事を描き切れない宿命を抱えていると言えます。半分の分量しか一つの出来事を描き切れない宿命を物語の弱点ととらえるなら、本書と『Blu』は相互に描き切れていない側面を描き合うことで、補完し合っている関係にあると言うことができるの「かもしれません」。これは作品を築き上げるうえでとても面白い試みであると私は思います。
 しかし、あえて「かもしれない」と表現するのには理由があります。一方の作品が他方の作品の不足部分を補っているとは必ずしも言えないと、私は思っているからです。それぞれの作品はもう一方の作品の言葉足らずな部分を補完しているものでは決してありません。ある事象にはそれをめぐるさまざまな視点の存在が許されるはずです。例えば恋という事象を例にとるなら、恋人同士でも必ずしも同じ感情を抱いているとは限りません。むしろ異なる感情を抱き合うのが普通のことであり、たまたま感情を共有していることに気がつくようなとき、深い共感が得られるという場合の方が一般的かもしれません。これは恋をしたことのある人ならだれもが経験したことのある事実なのではないでしょうか。だって、恋を共有している男女とはいえ、四六時中ぴたりとくっつき合って生きているわけではありませんよね。それぞれに日常の生活があり、空間を異にして生きている時間の方が長いはずです。それぞれの人生をそれぞれの視点から描こうとすれば、まったく異なる物語になるのは自然の理だと言えます。
 恋人同士をめぐる状況の大枠を決め、二人の再会までの時間と空間を自由に描き上げるという手法には、それぞれの作品を読んでいてとても面白いと思うことができました。同じ事象をめぐる意識のずれが読者である私にとって順当であったり意外であったりします。その共感と良い意味での裏切りが、作品を読む過程を華やかに演出してくれました。例えば、二人が別れる原因となった事象について考えてみます。『Blu』の主人公の男性にとって、この出来事は相手に対する絶対的な不信感と自己の存在に対する不安感を最大限に膨れ上がらせることになります。その一方、『Rosso』の主人公の女性にとって、この出来事は二人の関係を終わらせるほどのものとは認識されていません。この出来事の後でも、女性は二人の関係を継続することができると考えているのです。恋人同士の二人が同じ事象に向き合っているとはいえ、別人格である以上、主人公によってとらえ方がまったく異なる物語を書くことができるのは、むしろ当然の帰結であると言うことができるのです。
 『Rosso』の主人公であるあおいは、とても魅力的な女性です。その魅力ゆえに、穏やかで理知的な恋人にも、心から心配し支えてくれる友人にも恵まれます。しかし、その心の奥底にはいつも別れた恋人の存在があるのです。この一連の人間関係の描き方に、私は作者である江國香織の「繊細」を見せられたような気がしています。物語の全体に、ことさらに別れた恋人のことを思い出す場面は描かれません。かと言って、今の生活に対する不満が描かれているわけでもないのです。しかし、いずれは現在の恋人と別れ、かつての恋人に会いに行くことになるのだろうなという「雰囲気」が、作品全体にいつも静かに香っているように思えてならないのです。この「雰囲気」の忍ばせ方が、静かだけれども確実に作品の中に「不穏」な空気を漂わせることになるのです。読者である私は、この「不穏」な空気の先に待ち受けている何かが気になって仕方がありません。そしてついついページをめくってしまうのです。どちらが先かは別にして、ぜひ『Blu』と『Rosso』の両作品に触れてみてください。きっと、誰かとの未来を考えたくなるはずです。

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