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○2251『朗読者』○

『朗読者』
著者名:B・シュリンク 翻訳者:松永美穂 出版社:新潮社 文責:地歴公民 加藤真之

 心から愛した人がいたとします。
この際、愛の定義などは全く不要です。自分が相手を愛しているかどうかなんて、言葉で定義するような類のものではないからです。古来、あらゆる人々が愛を言葉に置き換えようと腐心してきました。ある者はそのことに成功しているように感じられますし、またある者は明らかに失敗しているようにも思えます。愛の種類についてもまた、さまざまな見解が試されてきたように思います。特にキリスト教、あるいは聖書に登場する愛の種類については、しっかりとした場合分けがなされているようです。きちんと調べた経験が私にはないので、この点について触れることは避けます。ここではあくまでも人間同士の間に成り立つ恋愛を愛の対象にしていると考えてください。いずれにしても、愛を表現する言葉に優劣の裁きを下すことは無意味です。それは言葉を受け入れる人間の心の在り方によって、いくらでも価値を変えてしまうものだからです。言葉は頭の中にある思考を整理し、他者に伝えるための道具であり手段です。そこには思考を言葉に置き換えるという難しい作業が伴います。この作業に完璧を求めることは、土台無理な相談だと言わざるを得ません。
 心から愛した人がいたという事実は、体が覚えています。相手のことを考えると胸が焼けつくように痛む、あるいは居ても立ってもいられなくなる。それが過去のものであり、既に多くの時を経ているにもかかわらず、いつまでも同じように自分を苦しめることがあります。こんな経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。仮に愛を頭の中で整理することができるものだとしたなら、胸が焼けつくような苦しみを味わうことなどなくなってしまうでしょう。愛を頭の中で整理している時点で、既に体の機能を統御することができているはずだからです。仮に愛を言葉によって的確に置き換えられるものだとしたなら、言葉によって自分の感情を理解することができるようになるはずです。そうなれば相手のことが心から離れず、居ても立ってもいられなくなるような経験をすることはなくなってしまいます。しかし実際には、人は自分が誰かを愛していると悟った時点で、愛に胸を焦がし、言葉にならない苦しみに居てもたってもいられなくなるのです。この事実がある以上、誰かを愛しているという現実は、頭の中の思考で感情を整理し、言葉に置き換えて納得することができる類のものではないのです。やはり体が無意識のうちに反応するものなのです。
 しかし、ここで重大な問題が発生します。自分が愛している相手が、果たして自分を愛してくれているのかという問題です。愛が言葉では完璧に表現することができないものであればこそ、そこにはいくつもの不安定な要素が残されることになります。自分が相手を愛していると自覚してはいるものの、相手の心がどこにあるのかをいつも不安に思うような恋愛ほど苦しいものはないのかもしれません。『朗読者』はそんな状況下にありながらも相手の女性を愛さずにはいられない男性の姿が描かれることで、推し進められていく物語です。私が所有し、この原稿の題材にしているのは、平成15年6月20日付で発行された第2刷です。この版のカバーには次のようにあります。「15歳のぼくは、母親といってもおかしくないほど年上の女性と恋に落ちた。(中略)ハンナは、なぜかいつも本を朗読して聞かせて欲しいと求める。人知れず逢瀬を重ねる二人。だが、ハンナは突然失踪してしまう」。ハンナはとても大きな秘密を隠し持っていました。永い時を経た後に二人が再会し、その秘密が明らかにされたとき、かつてハンナがぼくに本の朗読を求めていた理由も明らかにされるのです。ハンナにとって最も大切なことは、自分の過去と向き合うことでした。そこにぼくの存在は決定的な意味を持ってはいません。読者によってさまざまな読み方が可能だとは思いますが、少なくとも私はそう読みました。ばくにとっては愛であったはずの二人の関係は、ハンナから見れば長い人生の過去の事実でしかなかったのです。
 思わぬ再会によってハンナが隠し持っていた秘密を知ったぼくは、彼女のためになると思われることにあらゆる手を尽くします。かつて自分の前から姿を消したことに対する恨みや、本当は愛されてなどいないのではないかといった不安を飛び越えて、ただひたすらハンナのために心をくだき尽力するのです。愛を頭の中で整理し、言葉によって自分の感情を理解しようとすれば、このような行動をとることはできなくなってしまいます。恨みや不安がぼくの心を覆い尽くしてしまうでしょうから。しかし僕は何も疑うことなくハンナを想い続けるのです。それを行動によって示し続けることは、まさに愛なくしてはできないことなのではないかと私は思うのです。ぼくが抱えるこの愛は、不幸なものでしょうか、切ないものでしょうか、それとも馬鹿げたものでしょうか。私は掛け値なしに素晴らしいものだと思います。相手の幸せが自分のすべてに優先され、自分にできることをただひたすらに追い求める姿は、そこに私利私欲が差し挟まれない分、純粋なものだと言うことができるからです。本書のカバーの紹介文は次のように続きます。「現代ドイツ文学の旗手による、世界中を感動させた大ベストセラー」。作中のぼくの、愛に向き合う姿勢に対する称賛が、この物語を多くの人々に読み継がせていると私は思っています。

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