『論文捏造』
著者名:村松秀 出版社:中公新書ラクレ 文責 国語 坂本幸博
アメリカが誇る名門・ベル研究所で起きた空前絶後の科学論文捏造事件は、その論文の内容、掲載された科学雑誌のネームバリュー、掲載された膨大な数、追試に乗り出し、自らの研究に役立てようとした研究機関、及び研究者の数、どれをとっても圧倒的スケールである。不正を犯した物理学者ヤン・ヘンドリック・シェーンはノーベル賞の有力候補とまでいわれたのである。
研究対象は「高温超伝導」である(電気電子系では「超電導」と表記するが、当該図書では物理分野で一般的な「超伝導」で表記している)。単純に述べると超伝導とはいわゆる電気抵抗がゼロになる現象である。仮に超伝導が実現すれば、送電時に失っていた大量の電力を節約でき、地球温暖化やエネルギー問題に解決の糸口が見いだされるのである。
シェーンは次から次と論文を発表していくが、そこでは超伝導の実現温度がどんどん上昇していく研究成果が記述されていた。しかし、不思議なことに、そこで示されている研究方法を模倣して行う追試に成功する研究者が一人もいないのである。
次第に彼の研究に対する疑念の声が上がり始める。論文に示されるデータもあまりにきれいすぎるのである。そして2002年4月、プリンストン大学の物理学者、リディア・ゾーンの電話機に一本の留守番電話が録音されたことから、事態は大きく動いていくこととなる。
この事件の後、2006年1月、ソウル大学教授、黄禹錫がヒトクローン胚を使ってES細胞を作ったという研究が捏造であることが発覚する。また、日本においても、2004年12月には理化学研究所でのデータ改ざん、2005年5月、大阪大学医学部、同年9月には東京大学でも、論文に発表された研究成果が、捏造の可能性が高いとされている。
研究における、モラル・責任とは何か。また、論文を掲載した雑誌には責任はないのか。これらの事件は、数多くの問題をはらんでいる。そして、それらの問題は、何も科学の世界に限ったことではなく、我々一般社会に生活する人間にもいえることなのである。
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