『いねむり先生』
著者名:伊集院静 出版社:集英社 文責 美術 木村顕彦
本書タイトルにある「いねむり先生」とは、作家色川武大のことである。文中では****の名前で登場するし、小説であるからどこまでが真実かはわからない。ちなみに色川氏には作家としてもう一つのペンネームがある。それは阿佐田哲也。麻雀に詳しい人なら馴染みのある名前だろう。色川=阿佐田であることを私が知ったのは一年ほど前で、ムック本によってだった。
それはいいとして、本書は、女優である妻を亡くしてから二年ほど経ち、ボロボロの状態であった伊集院氏と色川氏の出会いから交遊の過程を描いたものだ。結果的に伊集院氏は小説家になるわけだが、二人の交遊は、文学論や読書による仲間ではない。二人をつなげたものの多くはギャンブルだ。「旅打ち」と称して、二人は文中、全国を巡ってギャンブルに歩く。そして、大食漢であった色川氏はその行く先々で、食べる、食べる。前述のムック本で色川氏の写真を見たときに私は「眼光鋭い怖い人(だけど太っている)」として記憶していた。だが、本書で描かれる色川氏は優しく、多くの人を惹きつける。ああ、こんな人だったのかという印象を新しく持った。そうはいいながら、やはり文中、色川氏の中にある闇の部分についての描写も登場する。その闇の部分は、著者の伊集院氏も同じく持っていたものだった。二人をつなげたのは、ギャンブルだけではなく、その闇の部分だったのかもしれない。年齢の離れた同性の友人、という二人の奇妙な友情は羨ましくもある。
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