ToO Gijuku Topics(東奥義塾)
東奥義塾高等学校 公式ブログ

○0537『脂肪のかたまり』

『脂肪のかたまり』
著者名:モーパッサン・高山鉄男訳 出版社:岩波文庫 文責 国語 坂本幸博

 前回に引き続いてモーパッサンの作品を取り上げる。この作品はモーパッサンの事実上のデビュー作となった短編小説であり、私の中では五指に入る名作である。「脂肪のかたまり」と渾名される人柄のよい娼婦と馬車において同席、宿において同宿になった人物たちとのやりとりによって話が展開していく。
 実は舞台になる場所は、その馬車の中と宿だけに限定されており、非常に狭い空間での物語である。そうした限定された空間であるにも関わらず、その内容は無限の広がりを持っており、モーパッサンの実力が遺憾なく発揮されている。
 時代はフランスとプロシアの間で戦争が行われた1870年代である。戦前の予想は覆され、プロシア軍が勝利し、フランスの「支配者」として君臨する。そうして占領された町から逃げだす馬車に乗っていたのは、貴族、紡績工場の経営者、修道女、主人の破産に乗じて店を買い取って財産を作った男、共和主義者の男、そして「脂肪のかたまり」と呼ばれている娼婦である。周りの乗客、特に女性たちは彼女に蔑みの視線を浴びせる。しかし、彼女はその視線を堂々と受け流すのである。
 さて、その馬車の乗客の中で食料を持っていたのは「脂肪のかたまり」だけであった。彼女はその貴重な食料を、惜しむことなく他の乗客に分け与えるのである。もちろん、自身に蔑みの視線を浴びせたものに対してもである。
 馬車は次の町に到着し一行は宿に入る。すると、その宿にはプロシア軍の士官がおり、「脂肪のかたまり」に同衾を迫るのである。それに対して彼女は士官の申し出を拒絶し続けるのである。士官は彼女がいうことをきくまで、一行が町を出ることを許さない。
 他の乗客は「脂肪のかたまり」を言葉巧みに説得する。それも自分たちが安全に町を出たいからである。そして、ついに彼女は「他の乗客」のために、にっくきプロシア士官に体を許すのである。
 結果、一行は町を出ることに成功する。その馬車に乗り込む時、「脂肪のかたまり」だけが食事を持参しないまま乗り込むことになる。失意のどん底にある彼女を尻目に、他の乗客たちは上機嫌で、食事を取り始める。しかし、「脂肪のかたまり」に食事を分け与えようとするものは一人もいないのである。そればかりか、彼女に対して「蔑みの視線」を浴びせるのである。
 一行は、旅の一日目、彼女の持っていた食事に救われたのではなかったか。一行が無事に出発できたのは、彼女がにっくきプロシア士官に体を許したからではないのか。
 他者に対する優しさを持っていたのは、「社会的には」さげすまれている娼婦だけであった。貴族や経営者といった社会的地位の高いものや、修道女という「清廉潔白」な「美しい心と信仰心」を持っているはずの人間は、皆「自分のこと」しか考えていないのである。
 人間のエゴイズムを見事に描き出したモーパッサンの実力に、我々はただただ感嘆するのみである。私の書評などでは全く魅力が伝わらない。ぜひ手にとって読んでほしい一冊である。

最新記事
学校所在地
036-8124               青森県弘前市石川長者森61-1  東奥義塾高等学校 TEL:0172-92-4111 FAX:0172-92-4116

東奥義塾

Author:東奥義塾

AKB48の渡辺麻友の3rdシングル特典DVDに本校制服が!!

この公式ブログが「あおもりICTコンテスト2010(学校Webサイト部門)」で「最優秀賞」!!

東奥義塾個人情報保護方針→こちら

カレンダー
プルダウン 降順 昇順 年別

06月 | 2017年07月 | 08月
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -